MasaichiYaguchi

岸辺の旅のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

岸辺の旅(2015年製作の映画)
3.8
湯本香樹実さんの小説を原作に、深津絵里さんと浅野忠信さんのW主演で黒沢清監督が映画化した本作では、純粋な夫婦の思いや愛が浮き彫りにされていて心揺さぶられる。
失踪していた夫・優介が妻・瑞希の元へ3年振りに突然帰って来たところから物語は幕を開ける。
何故優介が失踪したのか、そして何故3年振りに帰って来たのか、映画は簡単な台詞のみで詳しい説明も、背景も描かない。
答えの余白は観客の想像に委ねられている。
映画は、空白の3年間に優介が何をやっていたのかを、夫婦二人旅を通して辿っていく。
この二人旅はスピリチュアルな雰囲気に満ちている。
それは久し振りに帰って来た優介がこの世のものではないから。
本作では、我々が一般的に幽霊に抱くイメージを覆すような存在として登場するので初めは違和感を覚えたが、純度の高いストーリー展開のなかでそれは段々薄れていく。
彼らの旅は、優介が以前お世話になった人々を訪ね歩くものだが、霊が呼ぶのか不思議な出会いや出来事に遭遇していく。
これらのエピソードを見ていると、この夫婦の旅は償いであり、弔いの為のもののように思える。
だからこそこの道行は、優介と瑞希が胸に秘めていた様々な感情や思い、悔いや怒り、喜びや悲しみ、いとおしさや切なさ、そして愛がストレートに発露していく。
終盤、この夫婦と対を成すもう一組の夫婦が登場する。
人によって愛の形は様々だが、それは夫婦愛も同じ。
彼らともう一組の夫婦との対比で、如何に二人の結び付きが純であるのかが分かる。
二人の愛の時間が限られているからそれは凝縮され、美しく昇華されていく。
そして、この夫婦の物語の終わりが静かだからこそ、その愛の余韻は深く残る。