右ノウオトコ

岸辺の旅の右ノウオトコのレビュー・感想・評価

岸辺の旅(2015年製作の映画)
4.2
死んだ夫があっけらかんと帰って来て、何事も無かったかのように振る舞う導入部から面食らってしまった。そこから普通に街の人と会話をしたり、食事をしたり、彼が死んでいる事すら忘れそうになる描写が続く。しかし、瑞希には目を覚ます場面が何度もあるが、優介には一切無い。その場面が来る度に優介がいつ消えてもおかしく無い存在である事を思い出し、不思議な緊張感に晒される。存在しているようでしてい無い、その微妙なラインを黒沢監督は見事に表現していた。
今作における死別は”永遠の別れ”ではなく、”同じ未来を共有できない存在になってしまうこと”である。
その点で言えば、この曖昧とした死別の解釈はあらゆる”別れ”に共通しているように感じた。
不穏で心地いい、不思議な良作。