本の人

バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)の本の人のレビュー・感想・評価

5.0
邦画・洋画問わず、今や映画は有名な俳優・有名な監督・有名な脚本家が制作に携わっているからといって、決して面白い作品が出来上がるわけではない。さらに映画の旬のサイクルはかなり早く、少し前はメディア露出度の高かった俳優や監督が、もう日陰に入ってしまっているなんていうのは、もう見飽きたと言いたいほどよくあることだ。バードマンの主人公は、まさしくその1人である。
この映画の一般受けはいいとは言えない。なぜなら派手なアクションがあるわけでも、ラブロマンスを中心とした話でもないからだ。この映画はただどん底の元アメコミ俳優が、どうにか舞台俳優として一旗上げようと頑張る作品だ。しまいには人によっては主人公が狂人に見えただろう。それほどこの映画は人を選ぶ。しかし私はあえて、この映画を多くの人に見て欲しい。特に映画に携わる人間と映画が好きな人間は必ず見て欲しい。見なければならない。
懐古主義に見えるかもしれないが、昨今の映画、とりわけ邦画は、旬の俳優を使ったラブストーリーか、定番の俳優を使ったサスペンスが大半で、黒澤明やかつての清水崇のような奇才はみられない。良く言えば無難で大衆的、悪く言えば攻めの足りない凡作か駄作だ。『七人の侍』のような泥臭いがなぜかかっこよく感じる作品や、『呪怨』のような意味のわからない恐怖を邦画で感じることは、ほとんど叶わなくなってしまった。
洋画も同様である。安直な戦争物や、ミュージカル・既視感のあるアメコミが台頭し、もはやよく見る俳優が、なにかのコスプレをしてそれなりの演技をする映画が大半を占めている。
つまり攻めがないのである。もっと攻めて、もっと過激に、今ある全てをかけて今ある全てを叩き壊してくれるような志が、作品から感じられなくなってしまった。だから批評家やコメンテーター、果ては私のようなレビュアーでさえ「単調だ」「容易に展開が予想できる」と難癖をつければそれなりの批評・レビューができてしまう。しかしこれではただの映画へのいじめである。
バードマンの面白さはここにある。もはや主人公は後がない。なんとか表舞台にしがみつこいとする。そのためなら親友にだって迷惑をかけることを厭わないなんてとんでもない男だが、その無鉄砲さが、風前の灯に等しい娯楽としての映画を壊し、映画を「創る」情熱を湧き立たせる。映画が好きであればあるほど、自分の好きなジャンルが、映画を作ろうとすればするほど自分のスタイルが、自分の世界を狭めてしまう。ならばいっそ壊してしまえば良いのだ。これこそバードマンの真価である。
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