オレンジマン

バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)のオレンジマンのレビュー・感想・評価

4.1
凄い。良いではなく凄い。とにかく凄い。
まぁまずオープニングのタイトルの出方からやばい。なんだあれ、かっこよすぎるでしょ。
イニャリトゥももちろん凄いんだが、撮影監督のルビツキの仕事が特に凄い。本当にほぼ全編1カットに見えるし、劇場で座っているはずの僕の体は、カメラと共に登場人物と共に動いているような錯覚に陥るほどだった。
カットによって切り取られるという映画空間は否定され、動線によってつなげられるカット空間が総合的にニューヨークの劇場というリアルな空間を築き上げる。
音(楽)がまた最高である。ドラム音と”映画音楽”が使い分けられることによって、そのドラム音が表す生身の感覚を観客は感じ取ることになる。
このドラム音が正確に何を意味するのかは考える必要があるように思える。一見するとランダムに叩かれているように思えることから人生のランダムさを表しているのか、それとも主人公が普段何気なく耳にしていた音(劇場の中でドラムを叩いている人の画が一瞬映る)としてそれが癖で脳内再生されているのか、はたまたドラムはただの表現であってそれを具体的な楽曲や音に変えるのは観客一人一人違いということなのか。何にせよ僕らが人生の日常の中で無意識的に脳内再生している音的な捉え方ができるし、もっと言えば昂揚感や興奮や落胆など心情の変化を音的な情報に還元しているのかもしれない。
すなわち、この1カットのようにみえる撮影もドラムの音も僕ら観客が普段体感している世界/空間/日常を表すのに非常に有効に働いていて、イニャリトゥ監督の統一されたテーマである生(人生)や家族といった問題に非常にマッチしている。
ストーリーを追うのではなく人生を文字通り追い、役者や登場人物を観るのではなく役者や登場人物になる。本当に新しい映画体験、人生体験に近い映画体験を享受してくれるそんな映画です。

この映画の1番の楽しみはきっと帰り道にあると思う。
帰り道、僕らの頭の中には自分だけのドラムロールが流れ、自分が歩き座り立ち止まる、そういった普段の日常及び人生そのものが1カットの長回しであると実感させてくれる。

アカデミー賞作品賞監督賞脚本賞撮影賞、全て納得の1本でした。
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