土方巽の暗黒舞踏でいきなり観るものの心胆を震え上がらせる狂気の傑作で、もちろん劇中で執拗に描かれる悪に満ちた異常性愛と、その彼岸に現出する奇跡のような赦しと再生のドラマに心打たれるわけですが、何より特筆すべきは狂言回しである吉田輝夫扮する医者が、ある種の無垢を装いつつ物事をより悲惨な方向へ誘導していく滑稽な怖ろしさです。
ハンナ・アーレント曰くの「凡庸なる悪」を内包するような、この吉田の「装った無垢」は、一見ヒューマニズムや科学的探究と言ったポジティブな価値観を観客に提示しつつ、ある時は「覗き魔」としての欲望をぎらつかせ、妊婦の腹を裂き、狂気に満ちた目の輝きで観客の目を覗き込んできます。
一見、見世物小屋的いかがわしさを前面に押し出した露悪性ばかりが目につきます
しかし、その悪趣味に付き合う「無垢な」観客自身に、己が深淵を突きつけてくる、恐るべき作品だと思います。