垂直落下式サミング

我々は有吉を訴えるべきかどうか迷っているの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

3.5
前作で、一般人に対して数々の詐欺行為をはたらき、ディレクターを殺そうとした有吉弘行が、三度目のヒッチハイク旅を企画。今回は、北海道を舞台として日本最北端を目指す。ヒッチハイクトリロジーの最終作。
前作とは世界観をおなじとする続編だが、恐喝、誘拐、殺人未遂、人質強要、住居不法侵入、銃刀法違反、数々の罪状でお縄になったはずの有吉が芸能活動に復帰しているため、現実とは別の世界線の物語として撮られているようだ。今さらだが、とてもいびつなリアリティラインで進んできたシリーズだった。
というか、現実の世界では第二のブレイクから夏目ちゃんと結婚(推しカップリング公式化!)に至る今まで、ガールズバーの階段から落ちたくらいしか表立ったスキャンダルを報じられていなかったのが驚きな、品行方正常識人の有吉くんである。
物語のなかでは、相変わらず悪態をつく有吉。やっぱりマッコイと揉めて、コメディレリーフの安田がまた巻き込まれる。とまあ、場所だけ違う設定にした前二作の焼き直しで、特筆すべき際立った個性がない。第三弾にして早くもやっつけ仕事で、店じまいしながら作ってる匂いが漂っている。
第4作目以降が作られなかったのは、有吉がより一層多忙になり、仕事を選べる立場のタレントになったからだろう。異様なまでに放っていた畜生に墜ちたかのような殺気は鳴りを潜めて、そのかわり甲斐性のある大人として、出で立ちが自信に満ちている。
今回は、ちょっと饒舌な素の有吉がとても可愛い。前二作では、頑なに自己演出して出さなかった人間的な部分が見えてくるため、今風の『正直さんぽ』や『有吉の夏休み』の空気感に近いものにはなっている。
本作のハイライトは、ヒッチハイクではなく北海道のメインストリートすすきのでの一幕。ハッスルタイムで有吉さんも安田さんもシャイな感じが、ちょっと可愛すぎてダメだった。お約束で、ホテルにデリヘル呼んでるのとか嘘臭くなってしまうくらい。こういうところがちょっとズルいよな。可愛いおじさんはズルい。好きになっちゃうじゃん。
振り返ってみると、やっぱり第一作目の時点では、髪がボサボサで目が笑わなくて、風貌からしてちょっとおかしかった。よくあだ名芸のブレイク時はバキバキ度合いが凄かったなんて言われる人だが、確かに今とは雰囲気がぜんぜん違う。精神的に不安定そうな人が理路整然と核心をついてくる感じは、当時としては新しいキャラクターだったし、よく考えたら後にも先にもこんな芸風の人はいなかったかもしれない。
総評としては、飼殺し期間に染み付いた腐り根性をまといながら、モキュメンタリーの枠から逸脱しておかしな方向に発展していく反逆の沖縄編が個人的には飛び抜けてよかったし好きだった。
北の大地でおじさんたちの青春が終わる。悲しい。そんな心象を反映してか、天気が悪いのでマッコイグレーが復活。汚いなあ。汚いけど、この汚さが終わってほしくない。そんなセンチメンタルな感傷に浸ってしまうくらい、ちょっと強く思い入れてしまった。
これから10年後、有吉は大御所枠の椅子を勝ち取り、マッコイは深夜番組からインターネットTVに活動の場を移していて、放送作家メインとなった安田は家族でホウレン草の煮汁を啜っている。