むーしゅ

パロアルト・ストーリーのむーしゅのレビュー・感想・評価

パロアルト・ストーリー(2013年製作の映画)
3.0
 James Francoの短編小説集”Palo Alto"を原作とした作品。Palo Altoはカリフォルニアにある彼の生まれ育った街の名前で、彼の学生時代の思い出などから書かれた物語なのだそう。監督はFrancis Ford Coppolaのお孫さんかつSofia Coppolaの姪っ子で本作が長編デビュー作となるGia Coppolaです。

 カリフォルニア州パロアルト。将来について思い悩むエイプリルは、所属するサッカーチームのコーチであるミスターBの息子のベビーシッターを引き受けたことより距離が縮まり学校でも噂になっている。一方、テディはエイプリルへの気持ちを伝えられないまま、パーティの帰り道に飲酒運転で事故を起こす。お互いに惹かれつつも素直になれないエイプリルとテディだが・・・という話。原作短編集からエイプリルを軸としてエピソードを抜粋し、その他の登場人物を絡めながら物語を構成していますが、やはり群像劇という部分を変えているわけでは無く、子供から大人への成長を部分的にばっさり切り取った、というような物語です。同世代の目線で寄り添って描くというよりは、一歩引いたところから傍観しているような印象の作風が群像劇とマッチして独特の雰囲気を作り出しています。

 本作のポイントはリアルさです。作品制作にあたり監督はその点に非常にこだわっており、監督自身の幼少期の部屋を撮影に利用したり、自身の洋服をエイプリルの衣装として利用したり、主人公の母親を自身の母親にオファーしたり等々、主人公に自分の人生を重ねた形で作品を作り上げています。James FrancoがGia Coppolaの撮影した写真を気に入り、自ら映画に関しては素人であった彼女へ本作の監督オファーをしたことから作品制作が始まったようですが、本能的に彼女と物語の登場人物の間のつながりを感じ取ったのかもしれません。その甲斐もあり登場人物達が本当にパロアルトに住んでいるのでは無いかと思わせるリアルさを感じます。

 そんな監督の分身エイプリルを演じたのはEmma Robertsですが、彼女はJulia Robertsの姪っ子であり、まさかの有名人の姪っ子同士というつながりもある女優で、監督の分身かつ主人公エイプリルという2重の役を演じきっています。また相手役テディは本作が俳優デビューとなるVal Kilmerの息子Jack Kilmer。テディの友人役を演じ、子役経験のあるNat Wolffが彼の役作りをかなり助けたようですが、子役からの蓄積で出来上がっている演技では無い彼の定まり切っていない雰囲気が絶妙で、テディのイメージにぴったり。しかしそんなエイプリルとテディ2人が並ぶとなんともちぐはぐな感じがするんですよね。撮影当時17歳だったJack Kilmerに対して、Emma Robertsは21歳でかつ演技も10年以上の経歴があり非常にアンバランス。監督は「年齢よりも大人びた態度をとる普通のティーンとは少し違う経験をした彼女なら、エイプリルのキャラクターにぴったりだと思った」とインタビューで語っていましたが、果たして本当に彼女で良かったのでしょうか。彼女単体ではイメージにあっていますが、リアルさを追求するが故、周りの役者を実年齢にあった役者で固めたことにより、彼女だけが浮き上がって見える感じがします。もちろん主人公なのでそれでも良いのですが、Jack Kilmerが放つリアルさが眩しすぎて、Emma Robertsからは何とも言えない付け焼刃な雰囲気を感じざるを得ません。大規模オーディションを開催したものの結局監督の知り合いの中から主要キャストを選んだようですが、テディを彼に託すならエイプリルも同様に演技未経験者からセレクトした方が良かった気もします。物語の一歩引いた目線と彼女の浮き上がり方がどうにもちぐはぐした印象を高める作品でした。

 さて作中に出てくる新しい煙草を開けたときは願い事をして1本だけ逆さまに入れておきそれを最後に吸う、という願掛けが非常に微笑ましいですね。この短編集からは本作以外にも"Yosemite"や"Memoria"などといった作品が生み出されているそうなので、機会があればそちらも見てみたいです。
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