SANKOU

きみはいい子のSANKOUのネタバレレビュー・内容・結末

きみはいい子(2014年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

子供は親を選んで生まれてくることは出来ない。そして大人のように自由に自分の行きたい道を選べるわけでもない。
だから大人の果たすべき責任はとても大きい。まだ幼い子供は自分が間違いを犯したと分かっていても、どう対処して良いか分からない。
それを親が、自分と同じように何故子供にも出来ないのかと当たってしまっては駄目なのだ。子供は恐怖心だけを植え付けられる。そしてその恐怖心が後に大きなトラウマとなって同じように子供を傷つけてしまうことになる。
この映画に登場する子供たちは皆何らかの家庭の事情を抱えている。彼らこそ誰かが抱き締めてあげなければいけない存在だが、実は抱き締められなければいけないのは子供だけではない。
まだ新任の小学生教師岡野は、自分の中に正義感はあるものの、まだ未熟で子供たちと接することの本質を理解できていない。
クラスは半分学級崩壊になってしまい、児童の親からのクレーム、同僚の教師からの説教と教師の仕事に疲れを感じている。
ある家庭に問題のある児童を救おうと行動するが、正義をどう貫けばいいのか迷うあまり、却って児童を傷つけてしまう。
夫が単身赴任中の雅美は一人娘のあやねと暮らしているが、何かとあやねに辛く当たり虐待に近い仕打ちをしてしまう。
ママ友たちと交流する時だけは、体裁をつくろってあやねの前で良い母を演じようとするが、二人だけになるとつい暴力をふるってしまう。そんな雅美にママ友の一人陽子が親近感を覚え、やがて交流が始まる。
一人暮らしをする老女あきこは軽い認知症の症状に怯えている。彼女の家の前を通る名前も知らない小学生は「こんにちは、さよなら」といつもあきこに挨拶をしていく。おそらく自閉症なのだろうか、普通の子供とは違う反応をするその小学生の男の子にあきこの心は癒されていく。
この映画では子供たちよりも、むしろ大人たちの方が大切なことを気づかされ成長していく。とても優しさに溢れた映画だと思った。
岡野は児童たちに家族の誰かに抱き締めてもらうという宿題を出す。翌日宿題の結果を子供たちに聞くシーンはドキュメンタリーのようにリアルだったので、ひょっとしたら筋書きなしの子供たちの本音だったのかもしれない。
家族に抱き締めてもらった時の暖かい気持ち、懐かしい気持ち、やさしく気持ち、そんな不思議な気持ちを人に分け与えられるような人になって欲しいと岡野は児童たちに話す。
世の中にはどうしようもない大人がたくさんいるが、それも元を辿れば子供の時に大人にされた仕打ちが原因なのかもしれない。人は大人になると子供ほど簡単には変われない。
雅美は自身も親から虐待を受けた経験があった。だから彼女は自分の子供にも同じように辛く当たってしまった。でも根は優しい人間なのだろう、あやねは彼女に脅えながらも、彼女に対して深い愛情を抱いている。
雅美の苦しみを救ったのは、同じような経験をした陽子だった。雅美を抱き締めて彼女の心に寄り添う陽子の優しさに胸がいっぱいになった。
人に優しく出来ない大人こそ、誰かに抱き締めてもらう必要があるのかもしれない。
いつもは障害のために頭を下げてばかりだと言っていた小学生の母親に、あきこはとても礼儀正しい子供だと本心から小学生の彼を褒める。人に褒められたのは初めてだと彼女は涙を流す。自分の子供なのに可愛く思えないこともあるのだと。
あきこは母親を優しい言葉で抱き締めた。
最初は問題を抱えていた大人も子供も人の優しさによって救われていくが、全ての物事が解決した訳ではない。
あるひとつの問題が解決したのか分からないままこの映画は終わる。
それはこの映画が終わっても、世の中の子供たちの様々な問題は終わっていないことを表しているのかもしれない。
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