Eike

記憶探偵と鍵のかかった少女のEikeのレビュー・感想・評価

3.1
近未来?特殊な感応能力を持つ人材はその能力を活用して一種の探偵業に従事することが許されております。
人の記憶に入り込み、そこで出来事を「目撃」することに証拠能力が認められている(100%ではないがうそ発見器の結果程度には信頼できるとされている)。
主人公ジョン(マーク・ストロング)は腕利きの「記憶探偵」でしたが妻の自殺のショックで半ば引退状態。
しかしエージェント(ブライアン・コックス)の勧めもあって、現場復帰の慣らしとして彼の知人の富豪一家の一人娘、アナ(タイッサ・ファーミガ)の”治療”を引き受けます。
目的は彼女の記憶に接触し、その問題行動の原因を突き止め、彼女の拒食症状を緩和すること。
アナは通っていた名門校から放校処分を受けており、その経緯にも謎が。
彼女の義父はそんなアナを療養施設に送り込もうと画策している模様なのですが、その裏にはアナに遺された莫大な信託基金の存在がチラついております。
果たしてアナにいったい何があったのか?
彼女の記憶の中に潜入を繰り返すジョンの心理に不穏な影が射し始め、彼はやがてその記憶の迷宮に呑みこまれて行く...。

という展開から明らかな様に本作はある種のミステリーとなっております。
製作のJaume Collet-Serra氏は「アン・ノウン」や近作の「フライト・ゲーム」の監督ですが本作のミステリ風味も氏の作風に合った選択という気がいたします。
本作を見てやはり想起するのはC・ノーランの「インセプション」でしょう。
人の記憶に入り込むという設定とそこから生じるミステリーというコンセプトは同様です。
基本SF設定のお話でありながらもSF臭を可能な限り抑えた馴染みやすい物語としている辺りも同様です。
しかし本作はインセプションの様なスペクタクルとは無縁の至って小粒な物語であります。
それは主人公である記憶探偵ジョンと彼の対象となる16歳のアナという二人の間の物語として完結させているからですね。

正直言ってこの設定、物語の展開、そして結末のつけ方を含めてかなり変な映画という感想が浮かんでまいります。
観終わってみれば実は「ハードボイルド・ミステリ」だったりする訳ですが煙にまかれたような気持になったのも事実。
しかし、いかにもB級映画らしい奇矯さには妙に惹かれるものがあります。

本作、アメリカ映画ではなく米・仏・西の合作で監督の Jorge Dorado氏と製作のJaume Collet-Serra氏は共にスペイン人で撮影もスペインで行われております。
主演のマーク・ストロングとブライアン・コックスは英国組なこともあってヨーロッパ映画の気配が強い。
そしてその点が人物造形などにも色濃く反映されていて昨今のアメリカ映画ほど軽くなってはいない辺り、ドラマとして見応えにつながっております。

作品のカギを握るヒロイン、アナを演じたのタイッサ・ファーミガ嬢は名前から察せられるように演技派ヴェラ・ファーミガ嬢の血縁。
てっきり母娘と思いきやなんと姉妹だそうで年の差21歳(!)。
ヴェラ嬢の強力なプッシュを受けて演技の道に踏み出したそうですが中々堂に入った演技で現在ではすっかり中堅どころの演技派に成長されました。

理詰めで考えるとどうしても無理のあるお話ですから万人向けの作品とは言えませんが、変則的なハードボイルド・ミステリとして奇妙な味の作品に抵抗が無い方なら楽しめるのでは?
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