幽斎

記憶探偵と鍵のかかった少女の幽斎のレビュー・感想・評価

4.0
原題「MINDSCAPE」の意味は、Edvard Munchの「叫び」をイメージすると分り易い。想像の中で広がる世界、心象風景は正に本作を言い表してる。雰囲気はミステリーですが、やってる事はSFなので、主人公を探偵では無く心理カウンセラーに置換え、催眠療法を施してる位に考えると楽しめます。

主人公Mark Strongが渋くて良い、やはりミステリーにはイギリス人が良く合う。彼の主役は初めて見たが、ナイーヴな役処を表情だけで上手く表現してる。アナ役のTaissa Farmigaも素晴らしい。お姉さんのVera Farmiga(21才差!)の大ファンとしては、ウクライナ美人姉妹の共演も見たい。ミステリーとSFが同居するが、「エスター」のJaume Collet-Serraが雰囲気を壊さず上手く纏めてる。

記憶探偵の能力に途中から疑義が有るとすれば、真実と嘘の境界線を観客が推し量る事が出来ない。故に主人公に感情移入し難い設定に為ってる。これは監督のJorge Doradoの演出ミスと鋭く指摘したい。この部分をクリアーすれば素材が良いだけに、もっと面白い作品に仕上がったのでは、と思う。アナをレクター博士の様な創造物に仕立てる事も出来た。シリーズ化出来るクオリティなのに、とても残念だ。

それでも、物語の推論は出来る。以下は私の仮説です。
① 継父が遺産目当てでアナを嵌めようとしている。上司もグル。
② 継父が別の記憶探偵に依頼して記憶を操作してる。セバスチャンは関係ない
③ 記憶操作をしているのは実際はアナ、マウシーもアナ。全ての事件の犯人
④ 全てが主人公の妄想。謎は解決せずに終わる
私の中では答えは有りますが、皆さんは如何でしょうか?
主人公が心理カウンセラーと述べましたが、類するシーンも有る。1つはメトロノーム、同じ台に例えば5台置いて左から順番に動かしていくと、やがて全て同じ動きに成る。この同期する動きが主人公とアナにリンクする。他にも人に好かれるコツとして、意図的に相手に対して「貴方は私によく似てますね」と同調すると、それに相手も靡いて来る。ミステリーの世界では「ミラーリング」と言う、本作にも幾つか出てくる。

動機が弱いのが欠点ですが、着想と雰囲気はとても良い。自分は騙されてるのか?それとも誤解してるだけなのか?主人公とアナの初対面シーンで答えの分った方は優秀ですね。
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