けーはち

マイ・インターンのけーはちのレビュー・感想・評価

マイ・インターン(2015年製作の映画)
4.5
新興アパレル企業のバリバリ女社長と、定年後妻と死別してからシニア・インターン採用された老紳士との交流を描く、ハートフル・ドラマ。

★名優ロバート・デ・ニーロ演じるシニア・インターンのベンは、かなりの人が思い描く「理想の70歳紳士」を体現していると言えよう。定年を過ぎて現役時代と変わらず髪を整えスーツを着こなすだけでも面倒くさいだろうし、全く未知の業界に飛び込もうなどとは相当の冒険だ。なのに、彼はできることからコツコツやって、どんどん吸収していく昔気質の真面目で優秀なビジネスマンである。細やかな気遣いもあり、親切で話も面白いから皆に慕われる。新しい考え方には柔軟に対応しつつ、昔の知恵も活かす。趣味は古いがクラシカルで気品がある。「男がハンカチを持つのは女(の涙を拭く時)のため」という色気も忘れない。実際モテる。完全無欠のスーパー最強主人公老紳士。「こんな爺さんいねーよ」と思うんだけど憧れるわけだ。彼の智慧とユーモアと名言、人の良さがじわりと滲み出て本作全体を優しく心地良いものにしている。

★一方、アン・ハサウェイ演じる女社長ジュールズは、外部からCEOを招聘する件で日々東奔西走していて、かなり参っているんだが、有能で目聡く察しの良すぎる老紳士に踏み込まれるのを拒もうとする。ただ、それさえあっけらかんと嫌味なく受け流すベンに白旗を揚げ、打ち解けて、かなり踏み込んだ相談をする友人関係になってゆく様子は楽しい。忙しい、忙しいと言いながらも、ベンのFacebookのアカウントを作るのを手伝うところなんか、とても微笑ましくて良い。

★クライマックスには、ジュールズの夫マットとの関係の問題が浮上してくるんだが、「マットはかつてバリバリ仕事をしていたのに、私が仕事に専念できるように専業主夫になってから男としての自信をなくして」云々……そんなこと言われたって歳下の女の同僚や社長に対する紳士的なベンの振る舞いを見せられているんだから何とも言えない気持ちになる。自らを省みるなら普通の男だとそうなっておかしくないんだが。

★ともあれ、頼るもののないバリバリ女社長が人生経験豊かな老紳士に心を開いて寄りかかる構図は働く女にとっても男にとってもジーンと来るもの。名優たちが醸し出す大人の男女の友情を退屈せずに観せてくれる良作。幸せな気分になれる。

★蛇足だけど、2人が挨拶を交わすときに「SA YO NA RA!」って日本語で言うのは何だったんだろう。もしや、太極拳は日本のものだと思われている……?