ふき

マイ・インターンのふきのレビュー・感想・評価

マイ・インターン(2015年製作の映画)
3.5
成功したが問題を抱える若い社長と、そこにやってきた七〇歳のシニア・インターンを中心としたヒューマンドラマ作品。

本作はもう、ロバート・デ・ニーロ氏演じるベン・ウィテカーだ。
彼が語る言葉の一つ一つが、笑えるし興味深い。会社の同僚、社長、社長の娘や夫やママ友と、様々な人たちとの関わりそのものが、エンタテインメントに満ちていて、また短くも鋭いネタが効いているので、ためになる。
見終わってみると、「意外と簡単に会社でのポジションを確立したな」とか「確執らしい確執もなくアン・ハサウェイさんと親友になっちゃったね」とか思うのだが、ベンの完成された人間性をデ・ニーロ氏が体現してしまっているので、「こんな大人なら確執なんて生まれるわけじゃないじゃん」と納得できてしまうのだ。デ・ニーロ氏のこの演技が、本作自体の底辺をガッチリ支えていると言ってもいいだろう。
仕立てのいい袖口からいつ銃を抜いて「You talkin' to me?」と言うかハラハラしてて、ごめんね。

とはいえ本作は、上記以外は隙の多すぎる作品でもある。
まず根本的に、本作で最初に立てられるジュールズ側の問題、「会社の経営が上手くいっていない」が解決していない。
ジュールズが社長を務めるEコマース会社は、社長も加わるほど顧客対応が忙しく、出荷ミスがあり、梱包もいまいちで、SEは深夜まで残業し、Webサイトのバグはなかなか直らず、倉庫にシラミが発生し……と様々な問題を抱えている。その原因は「ジュールズのスピードで大きくなった会社に、周りや仕組みがついていけていない」であり、解決策として提案された「外部のCEOを雇ってはどうか」という件を軸に本作は動いている。
なのだが、本作がこの件に関して描いたことは、「自分らしく生きてきたら会社が不安定になったので、自分らしさを抑えようかと思ったけど、やっぱり自分らしく生きることにしました」だけだ。
きっちりした成功や改善はボカすにしても、「ベンの助言がCEOの代わりになるから」とか「ある程度まで規模を縮小しよう」とか「ベンの存在が社員の意識を高めて経営が回り出した」などの糸口さえ描かないのだ。現状では、こちらが会社の行く末を心配したままエンディングが始まってしまうので、「え、え、ちょっと待って、これで終わり?」と思ってしまった。

各要素がクライマックスまで繋がっていかないのも気になる。
序盤でジュールズが直面する様々な「働く女性の辛さ」が語られるので、当然それらの件がクライマックスで一斉に爆発してピンチになり、そこをベンの助言を得て乗り切るんだろうな、と思っていたら、結局ほとんど「言いっ放し」だ。
ジュールズと母親との不仲は、オーシャンズシリーズのようなケイパー展開に発展して以降まったく触れられなくなるし、ママ友とのギクシャクした関係の件も、ベンが子守中にママ友にフォロー発言をするものの、その後はジュールズと絡むシーンがない(というか登場しない)。
中盤の見せ場であるケイパー展開も、描かれる内容は爆笑なのだが、その後警察から連絡があるとか、協力した若い男性従業員と仲良くなるとかいった流れはない。言うなれば「見せ場のための見せ場」で、どれだけ盛り上がっても一過性の笑いでしかない。
その直後でジュールスが語る「今の世代は女は強くなったのに、男は逆に成長しなくなった」の件も、“古き良き”大人たるベンと、会社の頼りない若い男性従業員を対比した論だとは分かるのだが、言いっ放しな上に置き場所が悪い。彼ら若い男性従業員はベンと出会い過去のよさを学んで成長した後だし、なにより社長のミスのために一肌脱いでケイパー展開をこなした直後なのだ。酔った社長がつい発した本音としてフォローがあるかと思いきや、この件もどこにも繋がっていかないので、文字通り「言いっ放し」で終わってしまう。
かように、ベン・ウィテカーが解決した問題は多いものの、それぞれがクライマックスに繋がっていかないので、結果的に「ベンさんって何したんだっけ?」という疑問を覚えてしまう。二時間の尺に収める都合や、クライマックスの要素を絞り込む過程でお話をバッサリ整理したのだろうが、未完成状態で放置されたように見える現状は勿体なさすぎる。もっと深められ、広げられる問題設定だったはずだ。

では本作が最終的に描いたものが何かと言えば、実は「ジュールズの仕事か家庭か」の解決だけだ。しかもその解決は、妻に対する「あなたはあなたのままでいいんだ」という願望の後押しと、夫に対する「妻が仕事で頑張っているんだから、一人の時間が欲しいとか言わずに我慢しなさい」という抑圧的な結論で、従来の男女観を逆転しただけで進歩性も何もない。これでいいのか?

そんな具合に、ジュールズ社長のお話を眺めた限りは、この手のジャンル映画でよくあるパターンから脱せていないと感じた。それでもこの点数なのは、各々の演技の質やファッション業界ならではの美術の美しさ、そしてもうロバート・デ・ニーロ氏が体現するベンのあらゆる方面からの魅力だ。
というか、列記した問題の多くはスタッフロールを見ながら思い返したことで、ぶっちゃけ見ている間はデ・ニーロマジックにかかりまくってポヤ~ンとしてしまったのだ。
なので、見て損をしたというレベルではない。アン・ハサウェイ氏とロバート・デ・ニーロ氏の素晴らしさを二時間堪能すると思えば、もう一度見てもいいと思うくらいには満足した作品だった。

ああでも、ベンとフィオナが恋愛関係に至る展開は謎だったね。劇中で起こったことだけ見れば、ベンはフィオナにマッサージと称してセクハラされただけだからね。
ふき

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