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しあわせはどこにあるのmaのレビュー・感想・評価

しあわせはどこにある(2014年製作の映画)
4.8
「何を探すかより何を避けてるかが大事だ」

美しい恋人に快適な生活を守られながら、満足に暮らす精神科医のヘクター。しかし、患者や恋人との向き合い方に悩むうちに「幸せとは何か?」という問いが頭を占めるように。その答えを知るため、ヘクターはひとり旅に出る。


サイモン・ペッグ主演ということでかなり期待して臨んだのだが、これが非常〜〜〜〜に良かった。またひとつ、人生をともに歩みたいと思える映画と出会えた。

紳士的でスンッとしていたヘクターが各国を旅する中で、時には羽目を外し、時には危機に晒され、時には儚い命そのものに触れ、少しずつ変化する。

恋人のクララがそっと彼の荷物に忍ばせていた「幸せ探しノート」には、人と関わり合う中で聞いたことや気づいたことの記録が書き留められていく。それを見ていると、まるで自分もヘクターとともに旅をしているような気分になるのだ。

ヘクターは開業医で地位も経済的余裕もあり、世話をしてくれる美しい恋人がいて、一見何不自由ない暮らしをしているように思える。

しかし、「幸せそうであること」と「幸せであること」、このズレはかなり大きい。

他人からすれば恵まれていると思えても、世界中を探さなければ青い鳥がずっと自分の隣にいたことに気づけないように、幸せを自覚するためには人生の酸いも甘いも、世界の残酷さも美しさも知らなければならない。


終盤、旅の記憶をめぐらせながら号泣するヘクターを見ていたらわたしまで声をあげて泣いてしまった。そのシーンがあまりにも美しくて、3回観て、3回とも泣いた。

「It's all of」

人生には、ある。これまでの悲しかったこと、つらかったこと、嬉しかったこと、楽しかったこと、過去のすべてが発光して、その輝きに圧倒されてしまうことがある。それが一時的なものだとしても、気のせいだとしても、過去といまを肯定する涙があふれる、そんな経験があるかどうかで人のありかたはきっと大きく変わるのだ。


最後に、このシーンを観ながら思い出した、わたしが愛してやまない小説「蜜蜂と遠雷」の歓喜に満ちた一節を引用する。


〝河口は近い。その先に、
 広い海が待ち受けている感覚がそこにはある。
 これまでとは違う、
 海風の気配を誰もが頬に感じている。
 もうすぐだ。
 もうすぐ、
 私たちはとてつもなく開けた場所に出る。
 もはや後戻りはできない。
 昨日までの自分はもういない。
 これまでとは比べ物にならないくらいの困難が
 待ち受けていることだろう。しかし、
 これまでとは比べ物にならないくらいの歓喜もまた、
 どこかで私たちを待っていてくれるはずなのだ。
 私たちはそのことを知っている。
 誰もが確信しているのだ。
 これからの自分が、自分の人生に対して
 力強く「イエス!」と叫ぶであろうことを。 〟
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