かんやん

ザ・ウォークのかんやんのレビュー・感想・評価

ザ・ウォーク(2015年製作の映画)
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70年代に(今はなき)ワールドトレードセンタービルのタワー間を綱渡りしたフィリップ・プティの偉業(といっても違法なのだが)を、ロバート・ゼメキスが映画化。主演はジョゼフ・ゴードン=レヴィット。フランス語がかなりわざとらしいようだったけれど、アメリカでは気にならないのか。

実は先にドキュメンタリーの方を観ていたので、実写映画化の方は師弟関係や恋愛関係のドラマ部分がやはり嘘くさく見えてしまった。(火事になった)ノートルダム大聖堂の綱渡りシーンはあったけれど、それ以外数々のチャレンジがカットされ、いきなり無謀な行為をしているようにも見えてしまう。しかし、何度も綱渡りを観客に見せると、山場の効果が削がれるから、仕方のないことかもしれない。その山場は当時、劇場で3Dで観たらかなり迫力があったのではないかと思われる。いいから、はよ下りろや、頼む!と何度か思ってしまった。

映画というものは昔から、ずいぶんと高いところが好きで、切り立つ断崖や高層ビルの屋上、尖塔の最上階などは恰好の舞台であり、落ちそうになったヒロインはヒーローに救われ(ガッチリと手が握られて)、ヒーローは悪党どもをバッタバッタと叩き落としてゆく。アクションでも、サスペンスでも、コミックヒーロー(とくに飛べない方の)ものでもそうだ。数え切れないほどそんなシーンを観てきたし、これからも観てゆくのだろう(最近では『シャン・チー』のマカオの高層ビルの足場を使ったアクション)。映画とは、実に高さ(落ちることと落ちないこと)にとことんこだわって来た娯楽なのではないか。綱渡りと相性が悪いはずがないではないか。

しかし、この映画は実話が元になっていることを忘れてはいけない。つまり、事実として、又映画の回想形式のため、主人公は無事生還することは誰でも知っているのである。仲間集めのエピソードや綱渡りの準備、ビル侵入のサスペンスは、半減しないだろうか。

いやいや、そもそもミステリやサスペンスではないし、ましてやヒーローものではないのだから、そんなことは気にはならない。屋上で警備員から隠れるシーン(観客をハラハラさせるつもりなのに失敗している)など全く余計だと思われるほどである。

映画的な演出を超えて、プティの行為自体に感動し、感銘を受けるならば、再体験や追体験というとおこがましいけれど、その偉大さ、凄さの片鱗を味わうことができるのではないか。すると、足が震え、身は竦み、心震える。

もちろん、これは同時にワールドトレードセンタービルに想いを寄せる映画でもある。遠くにエンパイアステートビルが見えたりもする70年代ニューヨークの摩天楼のCGによる再現を見下ろしながら、昔は良かったなどとうっかり呟きかねない自分がいる。
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