あきら

ザ・ウォークのあきらのレビュー・感想・評価

ザ・ウォーク(2015年製作の映画)
4.0
無機物を愛することは片想いの極みだ。ワールドトレードセンターと、その間をワイヤーで繋ぎ渡ったフィリップ・プティの関係も例外ではない。
しかし、冒頭からまるで二者の馴れ初めかのように意気揚々と語り、舞台を進行させていく彼を見ていると『これは狂ってしまった彼が、タワーを抱いたと思い込む話なのでは?』という気にさせられる。(実話がどうなったかを知っていると尚更)(全裸にもなるし)

他のキャラクタも観客も皆、WTCに魅了された彼に振り回され、魅せられる。おかしいと感じていても、自分が助けてあげたいと思ってしまう。しかし、いざクライマックスの綱渡りが始まると、彼がおかしいのは地に足をつけているときだけで、ワイヤーの上にいるときは至って正気だ。
彼の狂気はその一歩を踏み出すために必要だったものに過ぎず、『そんなことなら手を貸さないで自分でなんとかしろって突き放したわ』と考えそうなものなのだけれど、彼に惚れてしまった以上、手に入らなくても置いていかれたとしても、眺めていたくなってしまう。
手に入らなければ、彼は永遠にあの舞台に立ち続けるからだ。彼もそれが分かっていて、タワーの永遠を信じたに違いない。

こうして綱渡りが終わり、ある種のハッピーエンドを迎えられたと思いきや、映画の終わりと同時に真に『WTC⬅フィリップ・プティ⬅観客』という永遠の片想いが完成してしまう。歩むはずだった未来と、現在の私たちが遠くから眺めることしかできない過去の交差点が、実は彼の立つ場所のみだったと突きつけられる結末が切ない。
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