かわさき

レヴェナント:蘇えりし者のかわさきのレビュー・感想・評価

レヴェナント:蘇えりし者(2015年製作の映画)
4.0

同性愛者、差別主義者、破天荒な大富豪、頭の切れるスパイ捜査官…。難しい役柄をストイックに演じながら、アカデミー賞では憂き目にあっていたレオナルド・ディカプリオ。そんな彼の悲願が達成された作品であり、当時はその“怪演ぶり”にばかりフォーカスされていた。まぁ実際、熊になぶられ、生の肝臓を食らい、雪山を孤独に転げまわる姿には、「もう頼むから今回は受賞してくれ…!」という気持ちになった。

しかし今改めて観なおしてみると、作品の中身もすこぶる優れていることが分かる。というより、当時からアート界が発していたメッセージに大衆がようやく気付いた。…というのが正しいのかもしれない。

たとえば2017年の映画『20 センチュリー・ウーマン』のマイク・ミルズ監督が、何かのインタビューで「今の時代、自分のような白人で、中年で、ストレートで、それなりに社会的地位のある男が主人公の映画を作っても、誰も観たくないんじゃないかな。何よりも、自分がそんな映画はもう観たくないんだ」と言っていた。2012年の『アルゴ』では、“アメリカ側にそもそもの非がある”と前置きしたうえで物語が進行する。つまり、しばらく前からハリウッドは「アメリカ的なアイデンティティ」からの脱却を図ろうとしていたのだ。

『レヴェナント』もまさにそんな現行の思想に裏打ちされているように感じる。本作における白人の映し方は、強盗そのものである。トム・ハーディなんかは邪悪極まりない。ディカプリオも受賞スピーチの際に彼を称賛していたが、別の映画を降りてまで「邪悪」に徹したコンシャスぶりは、確かに拍手喝采でもって称えられるべきだろう。

分断が進む今日において、勇気をもらえる映画だった。
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