もものけ

デビルズ・ノットのもものけのネタバレレビュー・内容・結末

デビルズ・ノット(2013年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

アーカンソー州ウエスト・メンフィスで夫と二人の子供を抱えるパムは、ウエイトレスの仕事へ出かける前に別れた息子が時間になっても帰宅しないことを不審に思い付近を探し回っていた。
しかし翌日にも帰らない三人の子供達は、"悪魔の巣窟"と呼ばれる森の中で無惨な姿で発見されるのだった…。






感想。
タイトルからホラー映画を連想させられ、驚愕の実話と知って戦慄する恐ろしいアメリカ猟奇殺人事件を元にした作品。

無駄な家族の絆を表現する長々としたシーンを排除して、冒頭数分間で分かる親の愛情を表現する演出のテンポの良さと、事件経過と周囲の温度差がもたらす衝撃的なおぞましい展開を、シリアスな演出で非常にスリラーとして上手く表現しております。

中でもショッキングなのは、子供を題材としたテーマで、遺留品を発見する警察官が汚れて淀んだ水の中から全裸で手足を縛られて死んでいる子供の死体を引き揚げる映像は、身の毛もよだつほどホラー映画並みにゾッとさせられ、これが実話ベースの作品であることがより心に突き刺さるエグいショックを味わわされます。
頭上からカメラを回し神が眺めているかのように、泣き叫ぶ両親をゆっくりと通り過ぎて"悪魔の巣窟"へ入ってゆくカメラワークが印象的に凄惨な事件を表しております。

この作品が感動を掻き立てるだけの陳腐なスリラー作品ではないのは、人々の主観による"偏見"をテーマとしていることです。

事件を時系列で追いながら、インタビューなどを交えたドキュメンタリー形式で作られた作品は、観客へニュース番組の特集を眺めさせる演出をとられており、これが主観による"偏見"を体験させる効果となっています。
前半では徹底的に悪魔崇拝者である少年達を、決定的な少年の証言で犯人として演出しております。
これらはテレビ番組で普段見られるごく普通の光景であり、決めつけによる内容構成から視聴者が主観を掻き立てられ、"偏見"という固定観念を定着させる効果があります。

中盤からは法廷劇として描かれるので、ここからは客観としての表現で事件への矛盾点などへ疑問を投げ掛ける演出です。

物語の展開による構成が非常に上手く練り上げてあります。
主人公が主張して登場するのではなく、様々な登場人物の一人として対局にいる母親という主人公との接点がないまま進み、ゆっくりと関係性が近づいてゆくのでスリラー作品としてのテンポを取りながら、法廷劇というドラマとして深みがあります。
ただし、傍観者としての立場から観客への視点として表現するキャラクターなのか、いまいち説得力にはかける存在でありますけど。

様々な登場人物として起用されたキャスティングも個人的に大好きな役者ばかりなのも好きです。
保護者役に「サボタージュ」のミレイユ・イーノスや、ケヴィン・デュランド、アレッサンドロ・ニヴォラ、監察官でイライアス・コティーズなど、個性的な演技が魅力です。

事件は解決された結末ですが、疑問の残る謎のまま過ぎ去っており、エンディングで経過が語られ幕が引きます。
未解決事件ではなく、謎のまま解決された事件のノンフィクションを映画化されてます。

一級サスペンス映画として、掘り下げ練り込まれた脚本と、登場人物達の謎の背景や、解決された事件をスリラー作品として演出してみせるなどが、秀逸に組み込まれております。

ダイナーで目撃された"血にまみれた黒人"は、発見されないまま消えてしまっており、観客としては最有力候補の容疑者のように見えますが、これもまた南部である田舎町にあるように"黒人"へ対する"偏見"を表しております。

父親の謎の行動や証言の曖昧さなど、ラストではナイフや靴紐から出た毛髪など、こちらはかなり作品では最有力容疑者として締めくくっております。

この2つの謎の存在が、スリラー作品としてスリリングさを醸し出しております。

しかし事件は解決されており、当事者にしか分からない謎のまま。
この作品では疑問を投げかけておりますが、もしかしたら事実は解決されたとおりなのかもしれません。
それらは全て冒頭のカメラワークの演出にある通り、"悪魔の巣窟"のみが知り得ることなのかもしれません。

"作られた犯人像"ともいえるべき"偏見"が集団パニックを起こすような現代の魔女裁判を、実話ベースの物語へ取り入れた名作に、4点を付けさせていただきました!
もものけ

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