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美少女プロレス 失神10秒前のpsychedeliaのレビュー・感想・評価

美少女プロレス 失神10秒前(1984年製作の映画)
5.0
「観たいけど観れない映画シリーズ」にずっとノミネートしていた一本。新橋ロマン劇場最後のラインナップに入っていたので早速行ってきた。こんな貴重な小品をスクリーンで観られるとは私も運が良い。
山本奈津子は『濡れて打つ』で知った女優で,独特の魅力を持った女優。ルックスは主演を張れる最低ラインをなんとか通るレベルだし,科白回しもまずいのだが,不思議な魅力のあるひと。『濡れて打つ』といい本作といい,物語が進むにつれて「この人じゃなきゃダメ!」という気にさせられる。「ゲコ,ゲコゲコ」のシーンなどはあまりのいじらしさに泣けてきてしまう。
那須監督の演出は軽快だが起伏に乏しいところがあり,序盤はストレートなナンセンスギャグの応酬に笑わされたが,その後は少々中弛みを感じる。コメディとしての出来は金子修介監督の諸作品に及ばないものがある。だが,この作品の真価は主人公が運命の逆境を乗り越え,心機一転の佳境を迎えてからだ。ここから物語はガラッと雰囲気を変える。馬鹿馬鹿しいスラップスティック・コメディから本物のスポ根ドラマへと鮮やかにシフト・チェンジするのである。
ここからが見ものなのだ。『濡れて打つ』はスポ根そのものを揶揄した筋金入りのコメディ,それもどこか皮肉で嫌味なコメディだったが,本作は正真正銘,本物のスポ根ドラマ。敗北と失恋を知った少女がライバルとの真剣勝負のためにリングに上がる。ポスターからは余程想定不可能な真剣勝負がここにはある。過去のプロレスの記録映像より,私はこの映画で初めてプロレスに熱狂した。少女たちの流す汗の爽やかさに心から感動した。嫌味がないのだよね。皆,監督以下役者まで楽しんでプロレスをやっている,映画を撮っている,そういう熱意が感じられる作品だった。この映画を映画館で観ることができて本当に良かった。
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