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ニュースの真相の小のレビュー・感想・評価

ニュースの真相(2016年製作の映画)
3.6
サラリーマンの自分にとってムナクソが悪くなる、実話をもとにした映画。これが現実、しかも日本でも同じようなことになるだろうと思うから、余計にムカムカする。

2004年9月、大統領選の最中に、CBSの看板報道番組『60minutes』が、再選を目指していたブッシュ大統領にネガティブなスクープを放送する。軍歴詐称によりベトナム行きを免れていたのではないかというもので、もし真実なら大統領選に大打撃だ。

しかし、保守派ブロガーが、スクープの「決定的証拠」を「偽造」と断定したことから事態は急転。プロデューサーのメアリー・メイプスら番組スタッフと伝説的ジャーナリストで番組のアンカーマン、ダン・ラザーは世間から猛烈な批判を浴びる。

批判の要点は2つ。ひとつはもちろん証拠が「偽造」だったのではないかということ。もう一つは報道がブッシュ再選を阻む方向に偏っていたのではないか、ということ。

証拠については、相手が悪かったということかもしれない。ワキが甘いといえば甘いのだけど、この映画で描写される取材に決定的な問題があったかといえば、それはあまり感じられない(都合よく描いているかもだけど)。

強いて言えば、相手が相手であり、時期が時期だから、もっと慎重を期すべきだったのではないか、と結果論としては思う。

報道が偏向していたかについては、映画の結末はどうあれ、「偏ることって、そんなに悪いことなのか?」と思う。 個人的には「偏ってますが、何か」(神奈川新聞のHP http://www.kanaloco.jp/article/127964)に賛成なのだ。

≪民主主義の要諦は多様性にある。一人一人、望むままの生き方が保障されるには、それぞれが違ってよい、違っているからこそよいという価値観が保たれていなければならない。それにはまず自らが多様なうちの一人でいることだ。

だから空気など読まない。忖度(そんたく)しない。おもねらない。孤立を恐れず、むしろ誇る。偏っているという批判に「ええ、偏っていますが、何か」と答える。そして、私が偏っていることが結果的にあなたが誰かを偏っていると批判することを守ることになるんですよ、と言い添える。≫

しかし、全国ネットワークを構築するマスコミがこのようなことを言うとは考えられない。それは中立・公正が一番の理由ではない、と思う。偏ることで視聴者や読者の幅を狭めることができないほど、組織が肥大化してしまっているという経営上の観点からだろう。

問題が発生したときのCBSは、ジャーナリストとしての矜持は二の次で、組織防衛が最優先。そのためには、結果ありきの内部調査をして関係者のクビを切る。これを見た組織の構成員は、調査報道でスクープするというリスクの高いことは、金輪際する気にはならないだろう。

CBSのような状況は多かれ少なかれ他も同じだろう。だから、テレビのニュースや新聞は面白くなくなる。偏りという個性を失い、同じような情報を流すだけ。そういう情報はネットで見れば十分。組織防衛は、結果的に組織自身のクビをじわじわと締め付けているのだ。

アメリカでは、CBSがこの映画のCM放映を拒否した。
(http://blogos.com/article/139947/)
人が感情的になるのは図星を突かれたとき。きっとこの映画はCBSの真実であり、大マスコミの標準的な姿なのだろう。

蛇足だけど、その他の感想を。ラストにかけてカタルシス狙いのシーンはあるけど、組織は守ってくれないことのインパクトが大きく、痛快さや爽快さはほぼない。しかし、ケイト・ブランシェットの怒涛のセリフは凄いし、ロバート・レッドフォードのキャスター役はとてもハマっていたのでないかと。
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