弟二郎

沈黙ーサイレンスーの弟二郎のレビュー・感想・評価

沈黙ーサイレンスー(2015年製作の映画)
4.8
再見。棄教しなかった者(強者)は崇められ様々な伝記や資料に残されているのに対し、記録に残されていない棄教した者(弱者)を描きたいという原作者遠藤周作の「歴史に黙殺された弱者の声」というニュアンスを頭に置いて。
無宗教バチアタリの僕にとっては、あそこまでいきゃ棄教せなやろ普通、というのが疑いようのない大正義であって。キリスト教徒の宗教的な葛藤は理解できないし、今のところそこに首を突っ込むつもりもないし。てわけでこの映画はやはり、基本的には危惧していた通り、苦手かつ理解不能な宗教ものだったと。
イエズス会が欧米諸国の侵略の先兵というニュアンスを匂わせ、昨今のイスラム教徒との宗教的対立という問題上で、あの80年代のベトナム戦争もの的な内省をやろうっていう側面もあるかと勘ぐってはみたものの本質として繋がる必然は感じるもののそれを匂わせているというほどにも思えず。
日本のキリスト教徒への弾圧描写の迫力についても、宗教的議論の触媒に、(できるだけリアルにという)日本文化への敬意を込めたことによる副産物程度のものであって、その凄惨さを訴えることを目的としてはいないと思え。社会派中二病案件ではないなと。
にせよこの長尺を2度目もやはり飽きずに見れて。それはやはり、日本人俳優に限らず、俳優陣の魅力で、アンドリュー・ガーフィールドの熱演には惹かれるし、ep7じゃなんやこの馬面はとしか思わなかったアダム・ドライバーもいい味だし、ほとんどセリフのない小松奈々も、てか更にセリフない加瀬亮の佇まいも、ラストを彩る黒沢あすかの立ち姿もよかったし。
要するにバイオレンスものとして楽しんでるなと。ちょっと勉強になるバイオレンスもの。うん。これ。やっぱ最高。最高なもんは最高。
日本への敬意は充分に感じ取れたものの、キリスト教徒への敬意はどうなんだろうとか日本のキリスト教徒への敬意はだとか。気になるところではありますが、そこは門外漢として測りようもないところで。
あとそういえば、日本語のほとんどが九州弁だったんだけど、下手な邦画より自然な九州弁だったことにも、ネイティブとしては言及しておきたいところです。

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映画の見方としては邪道なんでしょうけど、プロ野球からメジャーリーグへとか、Jリーグから欧州リーグへとか、ローカル局からキー局へだとか、築いた地位に甘んじず、初心に立ち返って未知の世界へ挑む姿マニアとしては、そのチャレンジが実を結ぶ瞬間にリアルタイムに立ち会えるという現実は、どんなドキュメンタリーよりも心揺さぶられるもので、2009年、2013年のワールドシリーズの時以来の、祝杯をあげたいくらいに最高な気分の昨夜だったわけですが。
しかも塚本晋也さんの「一生の宝になる言葉をいただいた」というツイートに釣られ、珍しく買ってみたパンフがこれがまたそんなドキュメンタリー気分に拍車を掛けてくれる物で。日本の実績者たちの新たなる挑戦スピリッツに満ち溢れていて。本作のテーマが正直いまいち掴みきれていなかった感もあって、そっちでばかり一人で盛り上がっていたわけですが。
そんな中、巻末近くの一頁、原作者遠藤周作の「歴史に黙殺された弱者の声」という一節を目にし。これがまた眼から鱗で。この方の描こうとした弱者とは、拷問をされ殺されていった者たちを指すのではなく、転んで生き長らえた者たちのことを指すのだとあり。
ということは、この話は転んだ人と転ばなかった人の対比を主軸に置くもので、だとすれば少なくともこの話を西洋人が物語るときに日本文化などはその触媒に過ぎないわけで。にもかかわらずこれまでの西洋映画中最高の日本文化への敬意を感じるという点で、スコセッシの日本への敬意の強さを改めてを感じると同時に、考えていた以上に蛇足の部分でしか楽めていなかったとの自覚が芽生えはじめ。
なるほどと。それらニュアンスを頭に入れたうえで、近いうちにもう一度、今度は主題の部分をちゃんと味わいに行きたくなってきたという。そんな次第の現状でございます。
まあしかし、ハエさえも味方に付けてしまうイッセー尾形のまさにマスターレベルの狂演。中盤のクライマックスともいえる塚本晋也のあの鬼気迫る熱演。ついに英語の台詞回しにまで味を出し始めたうえ、持ち前の邪悪さを漂わす浅野忠信の妙演。
そして、英語はともかく、ゴラムテイストからジーザスクライストテイストまで漂わせる、窪塚洋介の最高には届かぬもののその2歩くらい手前の、しかしあまりにも印象的な怪演と、あの窪塚走り。
それぞれが持ち前の個性を発揮した日本俳優陣のパフォーマンスは、ハリウッド大作のでかい役を印象的にこなしたという、これまでの日本人俳優の活躍とは全く次元の異なるもので、作品全体に流れる日本文化へのリスペクトと共に、蛇足だろうが何だろうが最高。
蛇足が主題を喰い過ぎて作品のまとまりを失わせたとさえ思えなくはないけど、日本人映画ファンとしては最高。最高なもんは最高。
弟二郎

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