ししゃもくん

最後の命のししゃもくんのレビュー・感想・評価

最後の命(2014年製作の映画)
4.0
自分が自分でいられなくなりそうなとき、自分が「まとも」な人間じゃなくなりそうなとき、いつもぼくをひきとめてくれたたいせつな作品。「俺は、お前には、幸せになって欲しいんだよ。俺もお前も駄目になったら、何だか、世界に負けたみたいじゃないか。」自分に言い聞かせるように、なんども、なんども、なんども。圧倒的な暴力性のなかで、感じるのはしかし圧倒的な優しさで、なんとかやっていこうとしている心の奥のなんともならなさ、正しいことと正しくないことのあいだの葛藤、すべてが優しい。
『最後の命』は中村作品で傑作と言われる部類ではないし、中村作品を誰かに薦めるとしても『最後の命』は選ばない。でも死ぬ直前に1冊だけ読めるなら、迷わず『最後の命』を手に取る。ぼくにとって『最後の命』はそういう小説だ。それが映画となってぼくたちに問いかける。胸をふるわせる凄惨な過去も、圧倒的な罪悪感も、親友の死すらも、単なる装置にすぎない。それらの装置が駆使され、〈生きていくこと〉が執拗に描かれ続ける。そのバイオレンスな恍惚に窒息しながら、しかしどこまでも一直線な希望を感じる。『最後の命』は、止まない雨の背後から差すひかりなのだ。
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