ヨーク

皆さま、ごきげんようのヨークのレビュー・感想・評価

皆さま、ごきげんよう(2015年製作の映画)
4.2
イオセリアーニ特集七本目。
そして七本目にして今回の特集上映ではおそらく最後の一本。早稲田とか目黒で延長戦やってくれたらまた観に行くかもしれないが、今のところ俺のイオセリアーニ特集はこれにてお開きです。短編含めて全21本だったらしいからちょうど3分の1観たことになる。まぁ上々だろう。
んで肝心の映画の内容はというと他のイオセリアーニ作品とスコアを比べて観ても分かるように今までで一番面白かった。この『皆さま、ごきげんよう』は2015年と比較的最近の作品で、現時点でイオセリアーニ監督の最新作である。御年89歳とのことだからまぁぶっちゃけ次回作があるかはかなり怪しいし、本作を暫定的な遺作としてもよかろう。いや次回作撮るならめちゃくちゃ観たいですけど。まぁでもおそらくイオセリアーニ自身も意識してたんだと思うけど、本作は暫定的な遺作としてまさにイオセリアーニ映画の集大成という感じがする。本当に偶然なんだけど本作を特集上映のラストで観たのは我ながらグッジョブでしたね。
お話は、と言っても分かりやすく一本の筋があるようなお話ではないので説明が困難なのだが、メインはパリの一角にあるアパートに住んでいる二人のジジイとその周囲の風景を切り取ったスケッチ風な群像劇といったところだろうか。その二人のジジイはやたらとキャラが立っていて、アパートの管理人兼武器商人のジジイと骸骨収集家の人類学者という濃さ。でもその設定が物語と絡んで作中で発揮されるのかというとそういうわけでもなくてローラースケートひったくり団とか分不相応な恋をする男とかホームレスの立ち退き問題とか権力に胡坐をかく嫌な感じの警部とか街中で太極拳をしているアジア系(?)の老人とかが脈絡なく描かれる。極めつけに映画はフランス革命時代(おそらく)のギロチンシーンから始まり、舞台演劇じみた演出の緊張感のない演出が成された現代戦のシーンへと続いていくのだ。
いやどんな映画だよ!? って思われるかもしれないが本当なので仕方ない。いや、イオセリアーニ作品の感想では毎回書いてる気がするが結構最初の方から居眠りしていたので飛び飛びな部分はあるが概ねは合っているはず。多分! でもそういうよく分からん映画を観終えた後でトータルとしてどうだったかというとそこは最初に書いたような監督の集大成という感じでしたよ。相変わらず睡魔が凄かったというのも併せて、イオセリアーニ監督の映画観たなぁ! という感じでしたね。だけど集大成っていうことは逆を言えばある程度はイオセリアーニ作品を観ていないと分かんないだろうな、という部分もあって、特に『群盗、第七章』と『唯一、ゲオルギア』は事前に観ておくの必須ではなかろうかと思う。それというのは噛み砕いて言えば、人類はどんな時代のどんな場所でも愚かに闘争を繰り広げて権力が大衆を虐げる。だがそれが反転して大衆が権力を打倒したとしてもただ首がすげ変わるだけで本質的には何も変わらない。イオセリアーニという作家はジョージアという地で育まれたその達観を緩い日常の中に皮肉として込めた作品を撮っている人なのだと思うし、本作でもそれは顕著だったと思いますね。
地政学的な要衝だったために何度も統治者の首がすげ変わってきたジョージアの歴史を語ったのが上記した『群盗、第七章』と『唯一、ゲオルギア』だが、そういう歴史や民族といった巨大なスケールの人生観をそこら辺で生きているおじさんやおばさんの人生のレベルにまで落とし込んで物語として語るのがイオセリアーニの面白いところなのである。なんだろうな、例えるなら歴史モノとしての部分やSFモノとしての部分を抜いた手塚治虫の『火の鳥』みたいなもんとでも言えばいいのだろうか。いやその部分を抜いた『火の鳥』面白いのかよって言われたら微妙な気はするが、でもイオセリアーニの映画って壮大なスペクタクルはないけど、どうでもいいような日常の部分に人生の機微があっていいじゃないですか。そしてそういう部分にも歴史とか国家とかに対する眼差しが見え隠れしていいんですよね。
大事なことを一切セリフとかで言ったりしないし、話の前後が通じないようなよく分かんない展開になることもしばしばだが、そういう緩々な展開と同時に社会への確かな批判性のある映画ですよ。そしてそこがことさらに強調されるわけではなくてフワっとしたファジーな感じで描かれてるのがいいんですよね。俺はイオセリアーニは3分の1しか観ていないが、これ伝わってるのかなぁ…といらぬ心配をしながらも、もしかしたら自分も分かってないかも…となってしまうほどの押しつけがましくない描写の作品ばかりですよね。
でもそこがよくて、俺が観た中では結局どの映画でも問題の根本が解決したりはしないんだが、とりあえず昼間から屋外で飲んでそこに音楽でもあれば人生は楽しいだろうっていう映画ばっかりだったので、そんなの最高に決まってるよなとしか言えないですよ。本作でも結構飲んでるシーンはあったな。
その緩さと軽さ、また観たいからまた特集上映やってほしいですねぇ。次は残りの14本にチャレンジするよ。あ、旧作だけじゃなくて新作も待ってるよ。
面白かったです。
ヨーク

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