佐藤哲雄

ロンドン・フィールズの佐藤哲雄のネタバレレビュー・内容・結末

ロンドン・フィールズ(2018年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

実に興味深く、私にとっては特別な意味を持った映画だったよ。

そして、アンバー・ハードの美しさと妖艶な魅力を、あの手この手で見せつけてくれた。

しかし、この映画の中のアンバー・ハード(ニコラ・シックスという得体の知れない女)のキャラクターが、実際のアンバー・ハード本人のそれと完全に一致しているように見えてしまうよ。

息をするように嘘をつき、人から金を騙し取る。

自らが持つ女の武器を巧みに使い、男たちの下半身を落としてゆく。

セックスをせずに。

話術や駆け引きのスキルも格別で、あえて金は受け取れないと言い張ってみたり、自分自身を信用できないからもう会えないと吐き捨ててみたり等、自分自身をあえて貶めて演出し、男が女を手に入れたいと思う心理を逆手に取り、彼女を失う苦しみを一時的に味合わせ、その苦しみを知った男は、その苦しみから金で逃れることが出来るのならば安いものだ、と感じるようになる。

かつての私がそうであったように。

恣意的な振る舞いをし、不誠実なことをしても、意図的に見え透いた嘘をつく。

短気に振る舞ってみたり、優しく包み込んでみたり、欲しがったり拒んだりと、飴と鞭とを使い分け、決して一方向へ偏らず、緩急のバランスを取りながら男の弱い部分を落としてゆく。

この映画で私が非常に興味を持ったことは、当時63歳の白髪男であるビリー・ボブ・ソーントン(作家)にだけは、どこか心を許しているような節が見受けられたところだな。

そして、最後には、それが形となって分かる。


当時アンバーは32歳。
ソーントンはアンバーの2倍の年齢だ。
だが、なにゆえか、そんな2人が最もしっくりときていたように思う。

男を手玉に取る女は、いわゆる知能が非常に高いと私は思う。

私自身、知能が低いとは思っていないが、かつて私を手玉に取り、数億円を騙し取った女性も、まだ女性は高卒か短大卒がほとんどだった時代に四大法学部卒であり、美貌や抜群のスタイルを持って生まれてきただけでなく、私を遥かに凌ぐ知能を持っていたよ。

この映画の中のニコラもまた、高い知能と抜きん出た美貌、巧みな駆け引きを、まるで手足のように使い、確実に男の身も心も虜にしてゆく。


そして、それらすべてを本当に手玉に取っていたのは、そんなニコラを弄んだ、もう一人の作家だった。

1人の男と3人の女の物語を小説に書き下ろしていたつもりのサムソン・ヤング(ソーントン)が、実は小説の中の登場人物にされていた、という設定と結末は、なかなかに面白かったし、120秒で5万人を焼き殺した原爆をヒロシマに落とした爆撃機の名前「エノラ・ゲイ」と、その原爆の名前「リトルボーイ」を使い、男に作り話を吹き込んでいた、という、まさに「金持ちではあるが無知な男」を弄んでいたニコラ、というところが、私にはとても面白く感じたよ。

そして、男たちは本当の意味で大人になってゆく。

それにしても、ジョニー・デップが幾度となく登場し、最後の20分の時点でアンバーと対面し、その美貌を褒めちぎり、イチャつき、キスをし、舐め合う、という場面は、今見ると、別の意味でハラハラしてしまうよ。

それから、この映画では、ダーツをことさらに全面に押し出していたが、ダーツを使った目的は那辺にあったのであろうかね。

しかしこの映画。
どのタイミングで撮影したものなのだろうか。

2018年公開、という、恐ろしく微妙な時期だが……

まあ詮索はよそうかね。


ともかく、魅力的な女に弄ばれた男たちの末路を描いた物語だったよ。

私にとっては、完全に自分とダブらせて見てしまった妙な感覚を覚えた映画だったよ。

この映画では、白髪の小説家は彼女を殺し、自死してしまったが、どれほど憎い悪女でも、私は彼女を殺しはしなかったし、私は今も生きているよ。

ゆえに、あえてスコアは付けずにおこうと思う。
佐藤哲雄

佐藤哲雄