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愛と闇の物語のQIのレビュー・感想・評価

愛と闇の物語(2015年製作の映画)
3.6
“立派な映画人になったなぁ”

13歳でのデビュー作『レオン』のマチルダに衝撃を受け、

『SW』シリーズのパドメにダークサイドに堕ちそうになり、

主演女優賞を総ナメにした『ブラック・スワン』のニナに女優としての凄さを感じ、

『マイティ・ソー』シリーズのジェーンの魅力に心奪われ、

30年近くその姿を追い続けてきたナタリー・ポートマンは自分にとってのfavorite actressの一人です。

イスラエルの作家でジャーナリストのアモス・オズの自伝作品の映画化を長いこと望んでいたナタリーが、監督、脚本、主演を務めたのがこの作品。

ユダヤ人迫害を逃れるためにヨーロッパからイスラエルに移住してきたアモスとその家族。

アモスに“愛と闇の物語”を語り聞かせる母親ファニア役を彼女が演じます。

とにかくナタリーの演技がこの作品の全て。

『ブラック・スワン』の徹底した役作りとは違う、ある意味ファニアが憑依したとも思えるその姿に最初から最後まで引き込まれました。

ファニアは自分が思い描いていた未来をイスラエル建国時の民族的、政治的混乱の中で見失い、次第に精神的破綻をきたしていきますが、そんな母親の姿を見つめながらも、彼女からの愛情に答え、いたわりを示すアモスの姿が胸に刺さります。

ユダヤ系の母親をもち、エルサレムで生まれたナタリー。

祖父母はホロコーストの犠牲者。

今や映画界で成功を収めていると言ってもいいナタリーですが、同じルーツとアイデンティティを持つファニアと自分を重ね合わせ、同じ道を歩むことになっていたかもしれないという想いが、彼女をこの作品に向かわせたのだと思います。

テーマも最近では珍しくないホロコースト映画という分類がされそうな内容ですが、この作品ではそれを強く打ち出しているわけではありません。

セリフはほぼ全編ヘブライ語。

とても地味で大衆向けの作品ではありませんが、宗教的、民族的、政治的なアイデンティティが生む悲劇という広く普遍的なテーマを描いている作品だと感じました。

多くの観客を楽しませるエンターテインメント作品に出演しながら、本作のような人間が忘れてはならないテーマを映画作品として自ら残そうとしたナタリーを、これからは素晴らしい映画人の一人として見ていくことになりそうです。

p.s.
そんなことを言いながら『マイティ・ソー』の新作発表でムジョルニアを手にしたナタリーの姿にワクワクが止まりませんw
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