Wakana

愛と闇の物語のWakanaのレビュー・感想・評価

愛と闇の物語(2015年製作の映画)
4.0
この映画はもうずっと日本公開の兆しがなくて半ば諦めかけていたのだけど、先日フィルマークスの通知が届いてまさかと本当に興奮した(どのくらい前から見たかったのかを思い出すためにTumblrのアーカイブを辿ってみると2018年1月とあるので実に三年間もこの映画を待ち望んでいたことになる。まさしくLONG-ingだった)。

というのも、この映画はジョナサン・フォアとナタリー・ポートマンの公開往復書簡のなかで取り沙汰されていた映画だったから。
サリンジャーを読むようになってからユダヤ人やその文化についてどこか注目しているところがあって、この二人はわたしの筆頭に挙がる文化人だっただけに、彼らに親交があると知ったときの驚きたるや今でも思い出すし、やはりというべきか往復書簡——いまはもう書簡はメールを指す——はめっちゃ面白かった。

で、肝心の映画もたいへんに面白かった。
終戦後の子ども時代をイスラエルで過ごしたあるユダヤ人男性の母の記憶と、放浪の民・ユダヤ民族たちの「乳と蜜の流れる国」の実現とが重層的に絡んでいた。
何世紀にもわたる放浪と迫害を経てロマンティックになりすぎた「再びわが国を作る」という夢と、ホロコーストと中東戦争を経て建国したという足元の現実とのギャップに分裂してしまう母の話。

さらに日本ではあまり聞けないヘブライ語を全編通して触れられるのもなかなかない時間だった。言語に興味があるらしいポートマンが監督しただけあって、一度失われたヘブライ語の語源とか派生語について考察が繰り広げられている。「アダマ(大地)」「アドム(赤)」「アドーン(血)」「アダム」……。

そういえば高校生のころ、古典で「をかし」「かなし」が相反する意味をもつ言葉なのが意味不明で、あくまでも定期テストで頻出の重要古語という認識しか持てなかったのを思い出す。この映画でヘブライ語を聞いていると、昔の人の感性というかどんなふうに心を言葉で表そうとしていたのかが少しわかるような気がしてくる。
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