butasu

パパが遺した物語のbutasuのネタバレレビュー・内容・結末

パパが遺した物語(2015年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

賛否あるようだが、個人的にはとても良かった。過去と現在を同時進行で見せる本作だが、どちらも大変心を抉られる話だった。

まず過去だが、母を交通事故で亡くし父だけを心の拠り所にする娘と、娘だけを心の拠り所にする父。この二人の深い愛情で結ばれた関係性が愛おしくてしょうがなかった。父は作家だが、事故の後遺症で体の震えの発作が定期的に生じ、発表した新作は全く売れず破産を余儀なくされ、義妹夫婦から娘の親権を巡って裁判を起こされる。あまりに辛く、どうかこの親子に幸せになってほしいと半ば祈るような気持ちで観ていた。ラッセル・クロウと子役の女の子が本当に素晴らしかった。二人が「Close to you」を歌うシーンを思い出すだけで泣きそう。

そして現在のシーン。成長した娘はいわゆる「セックス依存症」になっており、セラピストとして働きながらも自身の衝動が抑えられない。自分が本気で愛した人間は必ず失われるという無意識下での強烈な恐怖が、彼女を蝕み続けるのだ。ようやく彼女は深く愛することのできる恋人に出会うが、恐怖心から「恋人」を受け入れることができず、同じ過ちを繰り返してしまう。幼少期に彼女がどれほど父を愛しどれほど父に愛されていたのかを同時進行で見せられているので、彼女の辛さに感情移入してしまい、非常に胸が痛くなった。一度大きな過ちを犯したものの、やはり自分にとって本当に何が大切なのか、それを理解し覚悟して彼女はもう一度彼氏の家の戸を叩く。最終的に再び彼女を受け入れる彼氏に対し都合が良すぎるという批判もあるようだが、彼氏は元々「父と娘」を心から愛している、彼女の一番の理解者なのである。自分は彼女に深く感情移入していたので、最後彼氏が彼女を再び受け入れてくれたときに泣きそうになってしまった。

賛否が分かれている要因の一つに、この最悪な邦題があると思う。邦題から「泣けるピュアな親子の感動物語」を期待した人たちにとっては肩透かしどころか何なら嫌悪感さえ覚えるような内容になっているからだ。精神的に追い詰められた登場人物がもがき苦しむような作品を「純粋で美しい話」かのようなポスターと邦題で宣伝するのは、誰も得をしないからいい加減やめてほしい。自分のような捻くれた人間はこの邦題を見てなんとなく観るのを避けてしまっていたくらいだし。原題の「父と娘」はそのまま劇中の重要な本のタイトルなわけで、どう考えてもそのままにするべきだった。しかも観ている側はそれとなく感じとれるようになってはいるが、父の死が確定的に描かれるのは映画の終盤である。にもかかわらず「遺した」なんて言葉を入れる時点で本当にセンスが無いと思う。

いわゆる「きれいな感動作」を苦手としている人にこそ観てほしい傑作。
butasu

butasu