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ヴィヴィアン・マイヤーを探してのhorsetailのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

リー・フリードランダーのようなセルフポートレーを撮り、またダイアン・アーバスのようなストリート・スナップも撮る。そしてゲイリー・ウィノグランドのように大量の未現像フィルムを残したアマチュア写真家のネガが、ヘンリー・ダーガーのように死後、偶然発見される。膨大な量の写真は、生前は一枚も発表されることはなかった。撮影者は写真家ではなく、素人の乳母。生涯結婚することもなく、ゴミ屋敷と言えるほどにものを溜め込む性癖があり、最後は孤独死。
まるで、コンテンポラリー写真とアウトサイダー・アートを足したような。彼女の写真はあの時代の写真と共通するところがある。ヴィヴィアンが同時代の写真家の仕事にどれだけ目配りし、どれだけ自分の写真に自覚的であったのか、それと、大量の現像済みのネガは生前どれだけプリントされたのか、興味は尽きない。まさか、現像しただけではないだろうな。

2021/02/24
この映画を鑑賞してヴィヴィアン・マイヤーに興味を持ち、彼女について書かれた本、『Vivian Maier: A Photograhe's Life and Ahterlife』を読んだ。生前の彼女と写真が発見されて以来のヴィヴィアン・マイヤー・ブームについて、映画とは異なった視点から書かれている。本を読んで背景を知り、再視聴して映画の印象がずいぶん変わった。
いくつもの重要なことが映画では描かれていない。まず、ヴィヴィアン・マイヤーの写真が落札されたことは、まったくの偶然ではない。当時のアメリカでは一般人が撮影した普通の写真が「ヴァナキュラー写真」として評価される気運があり、すでにコレクターも存在していた。ジョン・マルーフがネットに画像をアップする以前に、彼女の写真を落札し、アップロードした人物はほかにもいた。マルーフはかなりはやい時期から、ネガスキャンからのプリントを販売している。マルーフは相続人のいないネガからプリントした写真を販売する場合の著作権の扱いについて、ネット上で相談している。ヴィヴィアンのネガやプリントは、すぐに高値で取引されるようになっていった。マルーフがこの映画を撮影しているのと同じ時期にBBCがドキュメンタリーを製作していたが、マルーフはBBCへの撮影協力を断った。ネガを所有していることと著作権を持っていることは別のことで、マルーフがプリントを販売して利益を得ていることに対して訴訟が起こされている。といったことが主なことである。
こうしたことを頭に置いて再視聴すると、この映画でことさらにヴィヴィアンの性格をエキセントリックと強調するのは、社会に同化できない天才「ヴィヴィアン神話」を作り上げようとしたのではないか、との疑いも浮かんでくる。
映画の後半、プロのプリンターによって仕上げられたプリントを前にして、「Thank you for showing me」 と言うマルーフに、プリンターが「They're yours」答える。この映画でもっとも重要な台詞はこれ、と言ったら皮肉な見方すぎるだろうか。
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