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4分間のピアニストのsyuriのレビュー・感想・評価

4分間のピアニスト(2006年製作の映画)
3.8
80歳のピアノ教師クリューガーは、女性刑務所内で、殺人罪の判決を受けた21歳のジェニーと出会う。ジェニーは天才ピアニストと騒がれた過去があったが、人を殺め、刑務所内でもたびたび暴力を振るう問題児となっていた。しかしジェニーの才能を見たクリュガーは死期が迫った自分に残された最後の使命だと考え所長に頼み込んでジェニーとの特別レッスンを始める。

音楽映画にありがちな、ヒューマンでハートフルな感動路線では全くなく、ピアノを題材に、ドイツ近代史の負の遺産をバックボーンとした、人間の負の側面を強調したハードボイルドな女の対峙を真に迫る演技、演出で迫る映画

善人など一人も登場せずそれぞれに事情は抱えつつも、主人公までもが自分の思惑のために相手を利用し人間関係を強調し肉体の暴力と精神の暴力を徹底して描き、抵抗することにより
物理的距離感と精神的距離感を相反させる演出、作劇が、最後まで貫かれネガティブだが力強いドラマ性を形作る

ドイツはヨーロッパの変な音楽が集まる場所として有名らしいが、クライマックスの4分間に演奏されるピアノ演奏もクラシックではなく、クラシックを破壊しようとする現代音楽やフリージャズを多少ポップにアレンジしたような演奏やジェニーが後ろ手にピアノを弾くところからも通常のピアノを扱う映画としては少しずれているところもおもしろい

といってもラスト4分間のジェニーのピアノ演奏は見事で素晴らしく美しい。

国民性の性なのか徹底してリアリズムを深く抉る綺麗事だけでは描かないドイツ映画の骨太さがにじみでて良質なヒューマン性とサスペンス性を織り成している

なかなか見る機会がないドイツ映画ですが見せる視点が陰の部分から切り取っていく手法は見事です
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