うめ

自由が丘でのうめのレビュー・感想・評価

自由が丘で(2014年製作の映画)
3.3
 韓国のホン・サンス監督と加瀬亮がコラボした作品。かつての恋人を追いかけて、韓国までやって来た日本人男性モリの日常を、時間軸を前後させて軽やかに描く。

 日本映画に限らず色んな作品に出演している加瀬亮だが、どの作品もいい味出している。今作も然り。恋人に会いに韓国までやって来たけれど、恋人が不在でとりあえず滞在しているゲストハウスの辺りを、文庫本片手にふらふらする姿がなんかいい(笑)その行動力や会話の発言からしっかりしている印象もある一方で、飄々としてだらしなかったりもする…彼自身の魅力なのか、演技の幅広さなのかわからないが、その二面性に惹かれることは確か。もっともっと色んな海外の作品に出演して欲しい。

 今作はモリと、ゲストハウスや近くのカフェにいる人々との交流を描いているのだが、時間軸を前後させているのが面白いポイント。場面が切り替わると、何の説明もなしにさらっと時間が前後しているのが興味深い。時間を前後させることについては目新しさはないのだが、その手法をこれといって大きな出来事も起こらない、普通の人々の交流を描くのに使ったのが、私にとっては新しくて興味深い点だった。

 時間を前後させる手法って、「記憶」とよく似ているなと思った。よくよく考えたら、ある出来事を映画のように時間の流れに沿って思い出したりすることってあんまりない。記憶は断片的だし、あちこち前後する。ある出来事の始まりを思うときもあれば終わりを思うこともある。何年かに一回しか思い出さない記憶もあれば、毎日のように反芻する記憶もある。時系列に沿って記憶が整理されていないように、モリの何気ない瞬間もバラバラのまま描き出され、刻まれていく。今作では、そんな「記憶」の特徴を発見できた。(ところで、そのように記憶について考えてみると、やっぱり『メメント』ってすごい作品なんだなってことに改めて気づかされる…。)

 ただストーリーは最初から終わりまで全てさらっと過ぎてしまっているのが残念。手法が面白かったので、終盤に結末へと繋がる展開が、ちょっとしたものでもいいからあっても良かったかもしれない。

 上映時間が60分程度と短いし、さらっと気軽に観ることができる作品。
うめ

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