よしまる

野火のよしまるのレビュー・感想・評価

野火(2014年製作の映画)
3.1
 8月なので戦争をテーマにと、オンライン上映会で友人がセレクトしたタイトル。

 塚本晋也監督、何十年経っても、戦争を題材にしても、基本的にやりたいことは同じなんだなぁ。こんな作り物感満載のグロ描写では戦争の悲惨さが伝わるはずもなく。鉄男やヒルコを戦争物に置き換えてくれるなよと笑。

 フィリピンの戦地に残された日本兵。戦争末期の太平洋では戦って死んだ者より病気や飢えで亡くなった者のほうが多く、生きるために人肉を食ったという話も別に都市伝説でもなんでもない紛れもない事実として認識されている。
 原作小説ありきとはいえ、そうした史実を題材にした映画を撮ろう!と思った時に、こんな作品になってしまうのが塚本晋也で、これこそが作家性というものなのだろう。

 スプラッター映画としては賑やかで面白いのだけれど、もはや戦争映画ですらなく、戦争の悲惨さを訴えることよりも極限の状況におかれた人間がいかに狂気をはらんでいくかを描くことのほうが主題だったのだとしても、あまりに表層的なギミックに頼り過ぎて深みに欠けていた。

 あれだけ切株描写も厭わないのに、さすがにムシャムシャと人を喰うのはタブーなのか、そのためエンディングも消化不良で、狂気が伝わってこない。言ってみればウジ虫が邪魔して本質が見えてこない笑
 文脈ではわかるのだけれど、登場人物たちのメイク感満載の艶やかな顔色を含め、心理描写も絶望とは遠いものだった。

 そうは言っても、やはり現在を生きるボクたちと同じ日本人が、わずか数十年前に突然日常を奪われ、遠く離れた地に赴いて鉄砲を渡され、人を殺したり食べる物も帰るあてもなく彷徨ったりした挙句に命を落としていったことはフィクションでもなんでもない。しかも震災と比べても桁違いの何十万人という数の兵士が、この終戦末期に非業の死を遂げている。

 そんな史実の一片をこうして映像として残していきたいという想いを全否定することなどできないし、これを見ていろんなことを感じ考えることは悪いことじゃない。

 逆にそんなふうにでも考えないと、戦争をこんなふうにしか描けないのかと、ただがっかりするだけのグロ好き映画として切り捨てざるを得ない。

 割と大根というか、当時の日本の軍人には見えない語り口調の人も多く違和感ありながら見ていたのだけれど、BJCの中村達也やリリーフランキーは全然気づかず、戦争映画に合っていたかはともかく個性としては際立っていた。ので、塚本監督&中村達也のバレットバレエは見てみたいと思った。

 観終わって「戦争を描きたかったけれどこんなふうにしかならなかったんやなぁ」と感想を漏らしたら、「それは最高のdisりやな」と友人に嗜められた。笑。