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野火のkuuのレビュー・感想・評価

野火(2014年製作の映画)
3.8
『野火』
映倫区分 PG12.
製作年 2014年。上映時間 87分。
1959年に市川崑により映画化された大岡昇平の同名小説を塚本晋也の監督、脚本、製作、主演により再び映画化。
共演にリリー・フランキー、俳優デビュー作の『バレット・バレエ』以来の塚本監督作品への参加となるドラマーの中村達也。

日本軍の敗北が濃厚となった第2次世界大戦末期のフィリピン戦線。
結核を患った田村一等兵は部隊を追放され、野戦病院へと送られる。
しかし、野戦病院では食糧不足を理由に田村の入院を拒絶。
再び舞い戻った部隊からも入隊を拒否されてしまう。
空腹と孤独と戦いながら、レイテ島の暑さの中をさまよい続ける田村は、かつての仲間たちと再会する。
戦場という異常な空間で極限状態に追い込まれた人間たちが描かれる。

戦争は地獄だ。
映画『フルメタル・ジャケット』のドアガンナーの台詞であった。
今作品は何処かダンテの『神曲』「地獄篇」を彷彿させる地獄巡りの話で、基本、語り手の私こと田村一等兵のモノローグによって構成されています。
戦争の歴史を通じて、多くの映画や監督がこの考えを探求し、映画の中でそれを示そうと試みてる。
しかし、その多くはこのアイデアの周りで踊っているか、その片鱗を見せるに過ぎない。
戦争映画はしばしば戦いを美化し、どこか魅力的で、名誉で、必要なものであるかのように見せている。
戦争や歴史を美談にすることを拒否した作家大岡昇平の反戦小説を再映画化した塚本晋也が目指したのは、このようなことではない。
塚本晋也は、その激しく険悪でシュールな作風で知られてる。
故に今作品では息つく暇もなく我々を地獄を描きだして、決して、巧い演技だとかセリフ回しが良いとかはないが、個人的には引きずり込まれました。
ヤサグレ兵隊でリリー・フランキーは、結構俳優として味と旨味をだしてた。
今作品は、戦争映画、それも名作と呼ばれるようなものとは一線を画していると個人的には思います。 
推すヒーローもいなけきゃ、救われるシーンもなく、敵軍の姿も一度も見えへん。
描かれる生き地獄は、日本版『地獄の黙示録』みたいなモンやけど、ジャングルから出ることはない。
塚本監督はのコメントに、コッポラの影響に言及していたし、高校生のときに大岡昇平の小説を読んで、そのときに映画化したいと思ったと云う。今作品ができるまでの間、ずっと頭の中にシーンがあったそうです。
塚本監督が自主制作の道を選んだのは当然のことで、ようやく実現したのが不思議なくらいだ。
スタジオがお金を出したがるような作品ではないし、同様に、塚本はこの作品ではやっていけないとわかっていた。
資金を得るためにビジョンを変えれば、映画は確実にカットされ、インパクトを失うやろし、彼がゼニ儲けのために映画界にいるのではないと信じてる。
今作品は、塚本監督の他の作品ほどシュールでもなく、幻惑的でもない。
生々しい内容にもかかわらず、今作品は一般の観てる側にとって日本人なら多少親しみやすい部分もなくはない。
第二次世界大戦末期、日本がフィリピンから撤退していく様子を描いています。
ほぼ全編ロケで撮影されており、現地にいるような感覚も多少味わえる。
視聴者は、泥と密林の中で生きるために奮闘する日本兵と一緒にいることになる。
物資はほとんど残っておらず、希望もない。
今作品はある意味すべてが強烈です。
弾丸が鳴り響けば音量が上がり、手足が切断されれば、飽和するほどの鮮やかな赤の閃光が噴水のように吹き出す。
ジャングルの熱気、ハエ、ウジ、腐った肉、そしてこの状況の絶望感。
時には大げさな表現もあったけど、塚本監督の他の作品とは異なり、今作品は常に現実の世界にある。
死体はリアルに見えたし、切り取られた肉は信じられそうで、漫画的でもなく、日本のアニメのレベルに近づくような極端な表現でもない。
安易に見られるものではないが、日本人にとって重要な作品であるのは確かかな。
反戦のメッセージとして、今作品はほとんどの面で成功していると個人的には思います。
今作品は、戦争の本当の恐ろしさを曇らせないための作品だと云っても過言じゃないかな。
ノンフィクションではないが、カニバリズムも含め、描いたものすべてが真実だと信じている。
戦争が人間を獣に変えてしまうという真のビジョンを受け入れることを恐れない映画です。
戦争映画は勝利や栄光、スリリングな戦闘シーンはスカッと観れて是だけど、そればかりが戦争映画ではないし、塚本監督は、戦争に勝者はなく、恐怖と地獄しかないこと改めて認識させてくれました。
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