檸檬

野火の檸檬のレビュー・感想・評価

野火(2014年製作の映画)
3.9
第二次世界大戦末期のフィリピンに派遣された日本軍の話。


本作は、暑さや飢えという苦しみの極限状態のまま、敗北が濃厚な戦を続けなければならない悲惨な状況を正面から描いている。
ほとんど敵の姿は見えない中で、死んでいく兵士たちの脳みそや腕が吹き飛んだり蛆が湧いている描写が思っていたよりしっかり映っていた。

生き地獄を彷徨う田村の感情がなくなっていく様子が何とも言い難い。
飢えというのはここまで人を変えてしまうのかと目を背けたくなってしまった。
戦争の悲惨さを飢えという視点から少しだけ覗けた気がする。


この映画を鑑賞後、終戦後も29年間フィリピンのルバング島で戦い続けた、最後の日本兵である小野田寛郎さんを思い出した。
彼曰く、健康でなければ思考が狂い、消極的になってしまうらしい。
彼自身も、島を歩いて出会う何年も前の遺体を埋めるたび、「早く死んだ方が楽なのかも……」と思ったそうだ。

小野田さんの回想の手記にはこう書かれている。
「何のために、誰のために30年間も戦ったのか」。

銃なき世界を夢想する。
檸檬

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