まぴお

野火のまぴおのレビュー・感想・評価

野火(2014年製作の映画)
4.1
【ジャクジャクジャクジャク…】

ひたすらエグく生々しい戦争描写。
劇場から出ようと何度思ったかというレビューをいくつか見てこれは相当の覚悟が必要だと感じていた。
俗にいう「鬼が来た!」と同じ人間のエグい部分を傷口からグリグリ塗りたくるタイプの映画だった。

この世界の人間はただの肉の塊でしかない。
そこに相手を思いやる尊厳といったものは一切なく

肉の塊がただ肉の塊を貪り続けその狂宴がジリジリと熱帯の蜃気楼と渇きそして飢えと交じり合いじわじわと侵食していく。
そして敵も味方もそれが何だったのかもわからないほど境界線がなくなり
最終的には一体彼らが何と戦っているのかもわからなくなる。
そしてそれは死にたくても死ねない世界が延々と続くかのような錯覚に陥りジャクジャクと蛆の湧く音と共に自らもその世界から本当に抜け出せるのかという心情に侵される。
環境がそれを作り出すのかそれともそれが人間の本質なのかはわからない。


現代の日本にとって不条理な死はテレビやネットを通した架空の世界でしかなく
どことなく私たちにとっては絵空事と感じてしまうところがある。
そこには血の匂いも土の味も極限の飢餓もない。
あくまでそれは安全な場所から見る非日常でありその非日常は明日には虚しくも
日常の悩みの隅に追いやられてしまう。

忘れてはならないのはこの非日常は70年前の日本兵にとっては日常であり
その日常を非日常が侵食し少しずつ少しずつ薄れつつあることことだ。
戦争の記憶は確実に風化しているのだ。
そして2050年にはほとんどの戦争体験者がいない世の中がやってくる。


この監督でさえこの戦場を経験したわけではなく自ら見聞きし取材をした上での想像の産物しかないのだ。
夜眠るときに私たちは蛆が死肉を齧る音で眠れなくなることはあるだろうか?
目の前で踏み潰される肉片の味を思い出すことはあるのだろうか?

死体の山を乗り越え先人たちは何を感じ何をそこに置いてきたのだろうか。

そんな非日常が起こったことさえも知らずに私たちはこの世界の「平和」を当たり前に生きている。

ふと目の前にある蒸かした芋を口の中に頬張ってみる。
もちろん土の味なんてしない。喉が渇いたのでお茶も一口含んでみる。身体が満足だと答える。

明日もまた同じ日常が待っているのだろうか?
その日常は当たり前に作られたものなのだろうか?

515本目
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