とむ

野火のとむのレビュー・感想・評価

野火(2014年製作の映画)
3.5
酸鼻を極める「戦場」という名の地獄。腐って黒ずんだ死体が累々と折り重なり、猛烈な異臭が辺りに漂う。命をつなぐために必要な食料も枯渇する中で、さまよい歩きそれぞれの本性をむき出しにする兵士たち。
これほどまでに戦争を醜悪なものとして描いた作品を他に思い出すことができない。息が詰まるほどの陰惨な描写には不快感を禁じえなかった。

しかしこの映画に描かれていることは誇張ではなく、ごく当たり前のように戦地で起こっていた現実なのだという。むしろ実際の凄惨さはこの程度では済まされない、と。
その言葉を聞いて、醜悪で不快だからと拒絶するのではなく、極限状況に追い込まれた人間の姿を通して戦争の恐ろしさというものを改めて考えてみなければならないと思った。
これからの時代を生きる人間の行く方をも見つめるような眼差しも印象的で、資金がなくとも今作らなければ間に合わないという塚本監督の強い思いが伝わってきた。
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