まつむらはるか

野火のまつむらはるかのレビュー・感想・評価

野火(2014年製作の映画)
4.3
映画を観たあとの、あのなんともいえない、こうやって文面にしないと整理しきれない感情をどこにやったらいいかわからなくて、よく先走ってレビューを見てしまうのが私の悪い癖なのだが、正直に言うと最近私は映画慣れしてしまったのかもしれない。
先月も30本映画を観て、3年前だったら見れないような映画も観れるようになり、ひとつの映画に対する印象がどうしても薄くなってしまうのは否めない。
それでもこの映画から嫌でも立ち込める、肢体の腐乱した匂いはしばらく頭から離れないだろう。

野火は戦争グロ映画として名高いけれども、ハリウッド映画の、例えばプライベートライアンのようなひどさともまた違う、やるせなさと漂う無気力が印象的だ。

野火は、フィリピンのカラッとした感じがあまりなく、あるいは原住民の血色のいい肌や気持ちのいい爽やかな土地と対比されてなお一層、なんというかじめっとしていて日本の夏のようだ。生きたまま体をウジ虫に食われていく様子とか、もはや戦うとか作戦とか関係なく、食べ物を求めて生き延びることで精一杯の限界状態だとか、脳みそを踏みつぶしたときのぐちゃっという音・・・とかがじめっとしていてエグい。

カメラが近しい距離で手持ちで不安定だったり、声の小ささとか、俳優がだれとか全然わかんない感じは、ドキュメンタリー的でもあり、じめっとした空気はジャパニーズホラーのような怖さがある。ずっと低音で鈍痛のような音響もまた『逃れられない地獄』感を増幅していて、カニバリズムにも死にも無抵抗になった亡霊のような人間の果てがある。

レビューで見た『冒頭の5分ですっかり死にたくなりましたが、あいにくと、ここはそう簡単に、すっきり死なせてくれない世界のようでした。』という言葉がしっくりきた。
この映画をぐるぐるに席に縛り付けられて観なければならないというトラウマを体験するのには価値がある。