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野火のナノセコンドのレビュー・感想・評価

野火(2014年製作の映画)
5.0
戦場の空気までも写し撮った名作だ。戦場に英雄を見たがる人々は観たくないかもしれないが、塚本晋也監督の入念なリサーチは凄惨で不条理な戦地の体験談をすくい上げている。

無駄を削ぎ落とし入念に書かれた脚本。近年の日本映画の穴だらけお涙頂戴脚本にウンザリしている私には、本当に精緻に作られ、観客を馬鹿にしないその姿勢に感謝を覚えた。

俳優の演技も本当にうまい。撮影のために痩せるだけでも日本の俳優には稀な事だ。飢餓の島ではガリガリに痩せていなければならないからだ。役作りを真剣にやっている。

ウルトラQが彼の映画に影響を与えていたと思う。ウルトラQでは不条理な世界に普通のサラリーマンが迷い込む話が印象的だが、国家をあげて不条理な戦争に突入しまさに国ごと不条理になってしまった時、普通の人々はこのような地獄に放り込まれるという事が表現されている感じがする。

爆撃シーンの迫力、機銃掃射の不気味さと破壊力。そしてプライベートライアンのノルマンディ上陸作戦描写を上回る凄まじい虐殺。今まで数多くの戦争映画を観てきたが、これを上回る戦闘シーンを見たことがない。全く腰が引けていない。

戦争があった。それは台風や津波のような自然現象ではない。この国家が自ら作り出した状況だ。

この時期にこれを世界に叩きつける塚本晋也は日本の至宝だと言える。彼に映画を作らせない日本映画界は絶望的だ。

だが、塚本晋也監督のこの意志を観客は後押しするはずだ。日本の観客は配給会社や映画会社よりもはるかに映画を鑑賞する能力を持っている。

戦争は嫌だ。あんな不条理はごめんだ。野火のヒットを祈願して、再び観に行くつもりだ。
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