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オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分のTOTのレビュー・感想・評価

3.8
一度の「過ち」を正すため高速に乗って降りるまでin the carのお話。
夜の高速は宇宙空間のようで、車を走らせる主人公アイヴァンは孤独な宇宙船の操縦士。
高速を流れる光を掴むように逃れるように走る、彼を駆り立てるもの、彼を縛るものは何か考えながら見る86分。

主人公アイヴァンと妻や息子、同僚たちとの車内通話だけで見せきるスタイルは舞台でもいけそうだけど、彼の心境を物語るようにぼやけてくテールライトとかサイドミラーに映る後続車とか、夜の高速独特の浮遊感と緊張感を感じる映像が素敵だったので私は映画で正解かなと。
通話ごとに刻一刻と状況が変わっていく様はスリリングで、ハンドルコントロールを失って事故るんじゃないかとベタな心配すらした。

アイヴァン役のトム・ハーディの演技は見事。
白いシャツにぶ厚めのセーターを着て腕まくりし、風邪薬を飲んで鼻をかみ、必死に車を走らせる。
ウェールズ訛りの落ち着いた声で家族や同僚に辛抱強く話しかけ、終話後には時に憤り、ひとりの車内で声を荒げる。
孤独な孤独な戦い。
私なら逃げ出しちゃうかも。
けれど彼が家族への愛や仕事への責任だけで行動しているようには見えず、彼を縛るものについて考えると興味深い。
特に、亡き父親をイメージして自問自答するように後部座席へ話しかける姿は、子供時代の逃れ難い抑圧と父親像への妄執を感じさせ、滑稽を通り越して悲しい。

高速を降りる頃、彼の孤独な戦いの答えも出る。
それは彼の求めたものだったのか?

あと通話する声だけの出演だけど、同僚役のアンドリュー・スコットや、次期スパイダーマンのトム・ホランドも良かった。
家族や同僚役のメンバーは別ホテルに待機し、車を走らせるトム・ハーディに電話して撮影したそう。DVDに是非メイキング入れてほしい。
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