アズマロルヴァケル

ロスト・エモーションのアズマロルヴァケルのレビュー・感想・評価

ロスト・エモーション(2015年製作の映画)
4.3
「未体験ゾーンの映画たち2017」出品作品。

不安に駆られながらも正統派な恋愛映画でした。

大戦争によって感情のない世界が作られた近未来。サイラスは雑誌でデザイナーの仕事をしており、「空想史実」の担当者だったのだが、ある日、会社で自殺現場を見る。それと同時に同僚のニアが感情をこらえる仕草を見てサイラスは彼女のことが気になりはじめ・・・

個人的には良くできており、男女共同とみられるトイレやマンションの住民が夜にやっているパズルゲーム等で世界観の描写が少し足りないのが苦言なのだが、監督の意向のもと世界観じゃなくサイラスとニアの恋愛模様に焦点を当てているらしく、ベッドインもあってか二人のラブシーンには演出が際立っており、とても生々しい感じでした。

内容としては、これまで「ロブスター」「コングレス未来学会議」「アイランド」とディストピア映画を観てきたのだが、この映画が一番辛い。何だって、裕福な暮らしが出来るのに感情を持てない世界がくどいと言うますか、感情を持ったところへ行けば裕福な暮らしはなく、廃虚と退廃的な暮らしがあるというのが辛い。「ロブスター」だと動物になっても感情表現が出来るし、「コングレス未来学会議」は夢の世界で自由になれるし、夢の世界にいようがいなかろうが感情を素直に出せるからいい。しかし、この「ロスト・エモーション」はどう考えたって不条理であり、感情をなくせばドナルド・トランプや金正恩は正常になるのか、戦争を起こさずにいくのかと言う感じで深く、論理的に素晴らしいと思えてならなかった。

監督が恋愛映画を多くとってるので上手く出来てるのですが、スリラーの要素もあり、後半は特に面白くも不安になり、ラスト手前で協力者が薬を注射されて感情を失うところはただただ怖くなるし、サイラスはニアが生きてるにも知らずに勘違いで薬を打ってしまうし、ニアがそれを知ったところでもう泣きそうになりましたね。

結局、ラストシーンはハッピーエンドと捉えてもいいと思ってるのですが、
ある種、「想像にお任せします」と言い難いラストシーンなので面白い。欲を言えばあの半島で感情を持った住民の様子を見たかったのだが、少なくともあの二人の恋愛模様の愛しさと不条理な内容には心打たれるので恋愛映画が苦手な人でも充分楽しめそうな映画ではありました。