ヌテッラ

ジェイン・オースティン 秘められた恋のヌテッラのネタバレレビュー・内容・結末

5.0

このレビューはネタバレを含みます

ラストシーン。既に売れっ子の作家となったジェインの元に、駆け落ちを諦め、涙を飲んで別れたあのとき以来初めて、トムが自身の娘を連れてやって来る。ジェインの大ファンだといい、朗読をせがむ娘に居た堪れなくなり、思わずトムが彼女を「ジェイン」と叱ったとき、目頭が熱くなる間もなくどっと涙が流れ出した。駆け落ちまで試みた生涯唯一の恋人は、時代の流れに引き離され、望まない結婚を強いられても尚自分のことを想い続け、形見のようにして娘に自分の名前を付けた。こんなに美しい愛を私は他に見たことがない。
身分や階級、性別に縛られて、女性というだけで自由を奪われたり階級に囚われて苦しんだりが当たり前の時代に、自由と自立を求めて奮闘しながらも、やっと見つけた運命の人との幸せを諦め、「お互いの存在」という自己犠牲の下で、漸く社会的な成功を掴んだジェインとトム。
自らの恋愛の破綻とは裏腹に、手掛けた小説の主人公皆にハッピーエンドを与えたジェイン。その心の底に眠る叶わぬ夢を想うと、彼女の作品の哀愁がより一層深まるようだ。
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