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ハングリー・ハーツのeikotomizawaのレビュー・感想・評価

ハングリー・ハーツ(2014年製作の映画)
3.9
どこを取っても愛が先立つ悲劇

運命的な出会いと恋愛、その延長線上で、男は彼女のこと大好きだからって、彼女自身は望んでなかったのに孕ませてしまい、彼女の意思表示が強くなかったことを良いことに、結婚を決めた上で無意識に妻のキャリアや将来を蔑ろにし、奪ってしまう。
大好きな彼との結婚は嬉しいけど、故郷は遠くキャリアも捨てた妻。すがれるものは必然的に夫と、お腹の子。敏感な季節に期待と一抹の不安が入り混じり、“鹿の件“を境におかしくなっていく。

と書くと、さもヤバい妻のサイコホラーのあらすじっぽいけど、そんなことはなく、彼女は緩やかにオーガニック信仰に傾倒していき、徐々に現代医療を拒絶し始め、代替を模索し、加工食品や動物性食品を口にしなくなる。栄養失調の母から生まれた子供。母は良かれと思って家族を守るため、家庭栽培の野菜をすり潰したものだけしか与えない。彼女の目を掻い潜ってなんとか子供を受診させた父。子供は過度の発育不良。ここから母と父の静かな子供の食事バトルが始まる。

妻は妊娠中からずっと低栄養状態だし、根本的な猟奇的な行動はほとんど起こさないけど(ヨラックスも彼女からしたらレメディのような感覚で与えていたのでしょう)、現実ってこんな感じじゃないかな。どんな信仰もそうだと思うけど、がっつり傾倒できる人って根は真面目で人が良いんだと思う。

映画の趣向はぜんぜん違うけど、妻はミッドソマーの主人公の女の子と重なって見えた。彼女の変化への不安や心許なさ、繊細さを推し量れず、無意識的に自分の我欲を押し通した夫(愛しているから君も望んでいるよね?)と、それをなんとか受け入れて、そう精一杯受け入れて、ボタンが掛け違えてしまった妻の悲劇だった。子供への眼差しだって、もちろん両親ともに愛している。けど子供死んじゃいそう。

登場人物の中で自分がどの立ち位置でもこうするしかないのでは・・と思ってしまうけど、そんなことはないよねと反芻。

薄々気づいてたけどイタリア映画おもしろ・・もっと観よう
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