櫻イミト

パゾリーニ(原題)の櫻イミトのレビュー・感想・評価

パゾリーニ(原題)(2014年製作の映画)
3.5
パゾリーニ監督の最後の数日間を描く追悼作。監督は「キング・オブ・ニューヨーク」(1990)「バッド・ルーテナント/刑事とドラッグとキリスト」(1992)のアベル・フェラーラ。

1975年ローマ。 パゾリーニ(ウィレム・デフォー)は「ソドムの市」の撮影を終えた。自宅では母(アドリアーナ・アスティ)と姪、遊びに来た親友ローラ・ベッティ(マリア・デ・メデイロス)と穏やかで楽しい時間を過ごす。 彼は自身の集大成となる2作品に取り組んでいた。小説『Petrolio(石油)』、そして映画引退作『Porno – Teo – Kolossal』は名優エドゥアルド・デ・フィリッポ (ニネット・ダヴォリ )の主演が決まっていた※2作品とも映像で再現。その夜、街外れに繰り出したパゾリーニは一人の青年に声をかけ、レストランで食事をして車で海岸へ向かう。。。

パゾリーニ監督の最後の数日を極めて冷静に綴っている。そこには敬愛も感じられ追悼作の色合いが漂う。ただし夜を舞台に人間の剥き出しの生と死を描き続けてきたフェラーラ監督の作風は貫かれている。パゾリーニ本人の性は露骨には描かれないが、『Petrolio』の再現映像の中では男性同士のオーラル・セックスが行われる。

フェラーラ監督によれば本作はセミドキュメントを目指し、家族や友人たちへの入念な取材に基づいて制作したとのこと。出演陣もパゾリーニ最愛のパートナーで常連俳優だったニネット・ダヴォリ、愛弟子ベルトルッチ監督の元妻アドリアーナ・アスティなど友人が協力。最後のレストランや海岸は実際の現場で撮影された。※謎の死の状況は、犯人として有罪判決を受けたジュゼッペ(ピノ)・ペロシの2005年の告白”自分以外の3人による暴行”に基づいている。本作では諸説ある彼らの素性については追及されていない。

本作から感じるのは、偉大な監督の死のあっけなさだ。映画の前後に挿入されるローマの歴史的建造物を絡めた青空のカットに、フェラーラ監督の思いが凝縮されているように思えた。言葉で表すなら”空虚”である。パゾリーニの不在に対して、人間の生に対して。
櫻イミト

櫻イミト