櫻イミト

少しの愛だけでもの櫻イミトのレビュー・感想・評価

少しの愛だけでも(1975年製作の映画)
3.5
「不安が不安」(1975)と同年の同じくテレビ用映画。原題は「Ich will doch nur, dass ihr mich liebt(私は愛してもらいたいだけなのだ)」

両親からの愛情を感じられないまま育った一見どこにでもいる普通の男が、妻を喜ばせたいとムリな借金を重ねてプレゼントしまくるうちに、精神を病んででしまい衝動殺人を引き起こしてしまう話。

主人公の過ごしてきた時系列がバラバラに並行して展開する。母を喜ばそうと近所の花を盗みきつく折檻される子供時代、彼女と付き合い始めた幸せな時期、借金を重ね追い込まれている時期。それぞれの場面に事件後のカウンセリングシーンも交わり、サスペンス演出で進んでいく。

ファスビンダー作品の中でも特にロケが多く、当時の日常的なドイツの風景が新鮮。画角もこだわっていて画面が面白い。途中に挟まれる建築中のマンションの風景がキーになっていて、物質が豊かさや愛情の物差しになってしまう資本社会下では、主人公のような不幸がこれからも増えていくことを暗示していると感じた。
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