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デスペア 光明への旅のbennoのレビュー・感想・評価

デスペア 光明への旅(1977年製作の映画)
4.0
ファスビンダー × ナボコフ
     × ダーク・ボガード

この組み合わせ…
面白く無いわけがない!!

原作ナボコフの『絶望』は完読…所謂メタフィクション…。但し、今作はメタ的な要素はありません。キャストの関係性は友人が従兄弟だったり、若干の違いはあるもののストーリー自体はほぼ原作のまま…。

1930年頃、街にナチスの姿が目立ち始めた頃のドイツ…。

チョコレート製造で成功を収めた亡命ロシア人のヘルマン(ダーク・ボガード)…。彼は妻と妻の従兄弟と一緒に生活をしていました…。

妻は夫に対して盲信的でちょっぴりお間抜けさん…従兄弟は画家で哲学好き…訳の分からないことばかり言いヘルマンに馬鹿にされています…そして原作にはないファスビンダーの色として…ここでは妻と従兄弟の近親相関を匂わせます…。

ヘルマンは退屈な日常と愚かな妻にウンザリ…そんな生活に漠然と違和感を抱いていました…。

ある時、街で出会ったホームレスのフェリックスが自分にそっくり…彼はある計画を練り始めます…。


コゲル・モゲル(エッグノッグ)を作るオープニング…卵の殻に水が弾き、殻が踊っているように揺れ動きます…そして、それは終盤のある映像に呼応します…。

撮影監督バルハウスの映像は今作も鏡、すりガラスを存分に生かします…。また、美術もとても印象的なアール・デコ…。ガラス張りのキューブを部屋の中央に置いたデザインはちょっとイミフの超現実主義…。

また、英語という言語の語感のせいか、これまでのドイツ語の台詞と違いファスビンダーのキレのいいシャープなカッコ良さはあまり感じませんでした。


  
  〜〜〜⚠ 以下ネタバレ含みます⚠〜〜〜










ヘルマンの計画とは…保険金殺人…。
自分と同じ顔を持つホームレスのフェリックスを自分の身代わりに…と、よくある殺人計画…。

しかし普通と違うのは…なんと、このフェリックス…ヘルマンとは似ても似つかぬ全くの別人!!

自己による自己認知と他者による自己認知の乖離…。
実際私も「あの人……に似ているよねっ」と友人に尋ねても、「どこが〰︎?」と言われることがあります。

そんな自分の思い込みという致命的なズレに気づかず殺人を犯してしまったヘルマン…。

しかしこのヘルマン…自身が天才であると吹聴するほどの自信家…実際そんなことはなく、むしろ人一倍頭の悪い人間なのです。自分の殺人計画を完全犯罪の芸術作品と勘違いしてしまう始末…決してコメディではなく、至って真剣です。

結末は言わずもがな…常に鏡やガラス越しで語りかけるヘルマン…鏡の中は本当の自分を映しているのではなく…鏡像…信用のならない世界なのです…。

鏡に映る自分は…一体誰? ( ॣ•͈૦•͈ ॣ)キャッ!!

彼のラストの台詞もやるせないです…。
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