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涙するまで、生きるのgenarowlandsのレビュー・感想・評価

涙するまで、生きる(2014年製作の映画)
3.6
カミュ続いています。
原作はカミュの『客』。謎な邦題💦原題は「人里離れて」。
アルジェリアにおけるフランス人とアラブ人の間で、友情、反戦、憎しみの連鎖を切る、のテーマを掲げたのはよいと思ったが、
どうしても西洋がアラブの文化慣習を教育で洗脳しようとしている図式にみえて仕方なかった。宗教では変えられないから教育による洗脳。

個人主義の西洋人が家族主義、全体主義を改めさせようとしているように見えた。アラブ人を啓蒙、教育するが、異文化から学ぶことはないのだろうか。

こういう構図にみえてしまうことが多々ある。家族主義、全体主義の方が個人主義より非西洋人の私にはより近く、肌でわかる感覚だから。

主人公のダリュ(ヴィゴ・モーテンセン)は、10年前に妻を亡くした元軍人。今は人里離れた乾いた土地の山奥でアラブ人の子供たちに教えている教師。そこに殺人の容疑で逮捕されたモハメドが連れてこられ、街の裁判所まで連れていくように憲兵に命令される。街までの途中、争いに巻き込まれ、フランス人とアラブ人の終わらない憎しみの連鎖を目撃する。

こういう土地に必要なのは生きる力になり、視野を広げる教育。生徒たちは素直で、親から学校に行くなとも言われず、彼と子供たちとの関係はあまり描かれていない。

この作品の弱さは、登場人物に生活感やリアリティーがないところで、言葉だけが語られる。平和や共存のために、意見を放っても、安全圏から発している。途中で出会ったゲリラ掃討隊の非情さにダリュは立派な意見を言ったが、それは彼がかつて軍隊での位が高く、かつ現在はその組織に所属していない部外者だから言えるのである。  

両親がスペイン人であり、アルジェリアではフランス人、アラブ人どちらからも「異邦人」として見られていて、どこにも帰属しない立場にある。

葛藤する姿に人間性を見出す。しかし本作では主人公は葛藤せず、葛藤はアラブ人のモハメドに預けた。

本作で、なぜだか乾いた高原地帯に緑と水をひくイメージが最後に浮かんできた。平和への貢献は、中村哲さんのような実践者がいるから前に進む。思考は大切だが、行動に結びつかない思考は人の心を動かさない。著述家は実践者になり得るか?人びとに命の潤いを与えることができるのか?心ではなく命の潤いを。

カミュは反面教師として非常に魅力的。もう少し探索続けます。
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