やべべっち

わたしに会うまでの1600キロのやべべっちのネタバレレビュー・内容・結末

3.7

このレビューはネタバレを含みます

最愛の母を亡くし自暴自棄になり浮気セックス、ヘロインと快楽に溺れていたシェリルが自分を取り戻す為にPCT(Pacific Crest Trail)1600kmを3ヶ月に渡って走破するロードムービーである。

これを自分探しの旅と揶揄するのは簡単だが自分が自分自身である為に「身体」の声を聞くというのは大切だと思う。

その為には人と一時的に分かれる事や俗世間から離れて自分を丁寧に感じる事。その為の空間や時間は時として必要でそれは本能のままに感じ行動するしかない。

テーマは「自立」であり母の逝去から4年余り必要だったという事。最後の方に「もう一度過去に戻っても私は同じ事をするだろう」と記している。ドラックや浮気セックスをした過去を彼女は否定していない。それは無駄な時間では無く必要な時間だったと感じている。だから過去の決別じゃない。

最初から救われていた。愛に包まれていたそれに気づいて感じるまでに時間がかかっただけだ。手段はともかくそれは人にとやかく言われる事ではない。

トレイル初心者あるあるでやたら要らない荷物を詰め込んだり、肝心な燃料を試す事をしなかったり、水を飲む配分を間違えたり、靴のサイズを間違えていたりする。それらは技術で予め想定はできなかったりする。

それは旅も人生も同じだ。何が良い方向に導くのかどの行動が自分を枯らすのかはわからない。

俯瞰して自分の今居る事、これから居れる事に感謝する事。それが恐怖や暗闇に立ち向かうエネルギーになる。

この実在の主人公はシェリルストレイド。とても知的な人らしくディキンソンの詩の引用などがスパイスのように散りばめられておりそれがこの映画の質感を上げている。

「勇気が君を拒んだらその上を超えていけ」とかは訳わかんないけど印象に残る言葉だ。

母親のゴースト役のローラダーンも良かった。性格女優で表情の豊かさは昔からだけど彼女ももう逝去する母の年齢になったんだねと思うと感慨深い。

PCTトレイルのアホみたいに雄大な自然が美しく休日の朝にはピッタリの映画だった。