かえで

キャロルのかえでのレビュー・感想・評価

キャロル(2015年製作の映画)
4.2
レトロでどこか寂しげな美しい世界の中で繰り広げられる、上品で繊細で切なく儚いキャロルとテレーズの恋。
恋に落ちたとき、互いに想いを寄せ合うとき、初めて一夜を共にするとき……いつも決定的な台詞は何もなくて、でも些細な視線や仕草から、2人の想いがひしひしと伝わってくるような魅せ方がすごい。内に秘めた互いへの熱情をうかがわせる2人の演技は本当に見事で、特に時折アップで映し出される手の動きには互いに対する想いがすごく表れていて、とてもセクシュアルに感じました。
同性愛についても、説明はないものの、人々の会話から『同性愛者は精神病だ』と考えられていたことが伺えて。同性愛をテーマにした作品にありがちな、「やーいゲイだ!レズだ!」みたいに直接的な批判を受けるシーンは無いのだけど、でも逆にこういう描かれ方の方がリアルで余計に心にずしんと来るものがあった。
同性愛というのはさておき、この恋はそもそも不倫であって決して世間的に褒められたものではないけれど、それでも観ている側が祝福したくなってしまうのは、2人が自立に向かって自分の力で前へ進もうとしている人物だからというところが大きいのかなと思う。決して相手にベタベタと依存するのではなく、互いの存在が良い刺激になったり弱い部分を補い合ったりする二人の関係は、観ていて自然に「いいな」と思わせてくれる。
この恋が世間には秘められたものであることを表現するような、地下鉄の通気口のアップから始まるオープニングも好きだし、随所で効果的に使われる赤色やタバコもすごくセンスが良くて。許されざる恋物語にありがちな悲劇的なラストにならないところもすごく良い。
単にセクシャルマイノリティーの映画、と言ってしまうにはあまりにももったいない、上質で重厚なラブストーリーでした。
かえで

かえで