佐藤淳

ヘイトフル・エイトの佐藤淳のネタバレレビュー・内容・結末

ヘイトフル・エイト(2015年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます


舞台は雪に覆はれて。

磔にせられた人のあつた意味。
其を形に残さうとした人の意志。
人を殺せば人に殺される、人を殺さぬ人が人に殺されるはどんな因果か。
一人の気狂ひに際会せば悲運だつたと云はれるかも知れぬ、是が世間全体の環視の中で行はれたら其を不運だつたと云ふ事は出来ない。

相手に銃を取らせてから復讐を為遂げる。彼自身の雪辱は果たせたやも知れぬ。が、彼にとつての雪辱の日は外の者にとつては屈辱の日となるやも知れず。悪意は其其の持ち回りなのかも知れない。人間の意識の中に仲間と云ふ概念のある限り悲痛の連鎖は已まないだらう。

賞金稼ぎの黒人の彼は、処世上の便宜を計る為に手紙を偽造したと言つてゐるが、本心はもつと別の因縁かも知れない。
心の安定の為か、或は意志の標準の為か、いづれにしても紙切れ一枚心底大事にしてゐた彼は戦士に非ず、猟師に非ず、詩人と云ふべきや。

祟りの吹雪の中に我が汚穢を雪げるなら、力と美との中で孤独死たるも円満具足を成就せん。
佐藤淳

佐藤淳