海

カルマの海のレビュー・感想・評価

カルマ(2002年製作の映画)
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いま読んでいる本が、「香港映画は屋上を目指す」という章から始まる。レスリー・チャンの最期から始まる。香港映画は垂直だというのを意識して、本作を観ていると、本当にそのとおりのように思えてくる。高いビルが建ち並ぶ街。階段を駆け下り、駆け上がる。上り詰めた場所から落ちていくのだ。わたしがもしもそうだったら、一番高い場所から視えるのはどんなものだろう、怖いものか幸福なものか。誰かに憧れをいだかれて、幻想の相手にされて、それを覚えまた他の誰かに移し、疲れ切っていつか落ちていくとき。どうかしてる考え方。不自然なものって、どうしてそれ以外のすべてを自然にしてしまうんだろう。この世がゆがんで描かれるとき、あの世は至極真っ当なものに思える。怖いものに頼り切ることの尊大さと、怖がることを怖がることの尊大さ。わたしは、どっちが悲しいんだったかな。すれ違う車のナンバーが、知ってる車と同じだったとき、今頃そのひとは、わたしのこと思い出してるだろうなと何の根拠もなく思う。眠れないほど会いたいとき、わたしの不眠にそのひとは気づいているんだろうなと何の根拠もなく思う。もう何もかもいやになるまえに連れだして。わすれないでをわすれる。あなたと他の誰かが重なっていく。わたしと他の誰かが重なっていく。こっちとむこう、いまといつか、ひとつになって不思議な顔が見える。写真には映らない、他の誰にも見えない、その目でしか見られない顔は、絶対に確実に存在する。
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