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レディ・ソルジャーのmaverickのレビュー・感想・評価

レディ・ソルジャー(2014年製作の映画)
4.5
クリステン・スチュワート主演の2014年のアメリカ映画。グァンタナモ米軍基地に設置されている収容施設Camp X-Rayを舞台とした作品。


この『レディ・ソルジャー』という邦題から、デミ・ムーア主演の『G.I.ジェーン』のような女性兵士アクションを想像したのだが、それとは全くかけ離れた作品性だった。原題は『CAMP X-RAY』。悪名高い収容所として有名なテロリスト収容キャンプの実態に迫る内容である。主人公は確かに女性兵士だが、そこがメインの話ではない。この邦題は安っぽい印象も与えてしまって残念だ。

9・11の同時多発テロに関わったとされる容疑者が施設に移送されてくるところから話は始まる。そこから時が経ち、この地へ配属されてきた新人兵士たちの物語として切り替わる。危険な相手への対峙の仕方を徹底して叩き込まれる。一瞬の油断もならないという緊張感を持って任務にあたる。その中の一人がクリステン・スチュワート演じる女性兵士エイミーだ。

危険な思想の持ち主、9・11の容疑者。この地に収監されているのはそういう者たちばかり。淡々と業務をこなすエイミーに彼らの容赦ない敵意が向けられる。手のつけられない厄介な相手という印象。それが観る側の自分たちにも刷り込まれてゆく。

タフなエイミーであっても、この地は辛い。セクハラパワハラも横行する。信念を持ち志願した彼女であったが、軍の正義に疑問を持ち始める。一人の収容者とのやり取りの中で、その考えは大きくなるのだった。

エイミーの目線で見ることにより、こちら側の考えも変化する。野蛮なテロリストにしか見えない収容者たちが、一人の人間として見えるようになってゆく。収容者の一人、アリと、エイミーとの交流を通して人間の尊厳というものを考えさせられる。彼らは疑いをかけられているに過ぎず、無実かもしれないわけだ。アリは再三に渡って無実を訴えかけたが全て却下されている。テロに関わったとみなされただけで不当に監禁され、自由も尊厳も奪われる。何年もそんな扱いを受け続ければ、相手に敵意をむき出しにするのも当たり前というもの。例え釈放されたとしても、そこで生まれた敵意が新たな惨劇の引き金となる可能性だって考えられる。この怒りの連鎖が戦争に繋がってしまうのだ。そうならないためにはどうすればよいのか。エイミーとアリに生まれる関係性に、その糸口があるように思う。

クリステン・スチュワートの熱演ぶりが見事。兵士らしいタフさもそうだが、揺れ動く心の内を表現した部分が素晴らしい。収容者のアリを演じたペイマン・モアディも印象に残る。収容所での感動のドラマを描いた作品は少なくないが、本作もその内の一本に数えてよいだろう。


感動のドラマとしても秀でているが、テロの参考人と疑われた相手がどういう仕打ちを受けるかを知らしめる部分こそが本作の肝。このような行為は許されないことだが、そのアメリカの非を国民に訴えかける本作の存在は素晴らしいこと。国が間違った方向へ向かっていてもそれに疑問を持ち、改めさせようとする人がいる。そういう人がいる限り、この世界はまだまだ捨てたもんじゃないと思える。世界から争いがなくなることもきっと可能だと思う。そう感じさせる話であった。
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