みゅうちょび

レディ・ソルジャーのみゅうちょびのネタバレレビュー・内容・結末

レディ・ソルジャー(2014年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

邦題がこの映画を安っぽい響きにしてしまっている。凄く良い作品なので多くの人に観てほしい。

原題は、Camp X-Ray 。アルカイダとの関与やテロリストと疑われたイスラムの拘留者が多く拘留されている悪名高き米軍のグアンタナモ湾収容所。
そこに配属された女性兵士と拘留者の一人であるアリという男の話。

これは、恐らく、2002年にグアンタナモ湾収容所に拘留され、無実とされながらも未だ交流され続けているモハメドゥ・ウルド・スラヒといういう人が書いたグアンタナモでの体験手記からインスパイアされた物語だと思う。

決して言葉に耳を傾けるな!奴らは心の中に入り込もうとする!

そこに派遣された兵士たちは獄中の勾留者達が脱走するのを監視するのではなく、自殺しないようにするのが重要な任務なのだ。

新任の女性兵士エミリーは、ある日勾留者の房に本を配って回っていると一人の勾留者、アリが執拗に彼女に話しかけてくる。彼女をブロンディと呼び、無視しようとする彼女に次々と質問を投げかけてくるのだ。そしてある時、そのアリからとんだしっぺ返しを食らうことになる。

彼女は、アリにとんでもない目に合わされながらも、以後、彼のことが気にかかり彼のファイルを見たり、次第に彼に関心を抱くようになる。

勾留者たちを悪人としてしか見ない仲間の兵士たち。仲間として一人の兵士として溶け込もうとするエミリーだったが、そこに彼女の求めるものはなかった。

彼女がなぜアリに関心を抱くようになったのか?あの環境ではあるが、アリは心底人と接することに飢えていたに違いない。そしてエミリーは、彼が、彼自身を理解してもらおうとするのでなく、ひたすら彼女のことを知りたいと思っていたことで心を揺さぶられたのだ。
ハリーポッターの最終章を何年も待ちわびていると語るアリ。ハリーポッターの結末を知りたいという思いと同じように、彼はエミリーという一人の女性のことを知りたかった。

拘留され続けている彼は、なにを求めて、そんなにも敵のような兵士のことを知りたかったのだろう。それは、彼の心のおおらかさと彼の知性が自分を理解させる以前に何かを知りたいと欲していたのだろう。

人を好きになることに理由は要らない。その人のことを知りたいと思う、その気持ちさえあれば、その第一歩は踏み出せる。

エミリーは、彼女自身のことを知ろうとする彼の純粋な目の奥にあるものに自然と惹かれたのではないだろうか。

独房は、戦場であると言う上官の教え。そう、まさにそこは戦場だった。
けれど、そこにいるのは紛れもない「人」。

互いを理解しようとする行為こそが、知性のある人間の成す技であり、そこに今一度立ち戻るべきなのだと映画は語っているようだった。

アリの真意がどこにあるのかわからないまま迎えるクライマックスはスリリングで、その結末は感動的だった。

わたしは、途中、先が見えず、それ故に怒りに任せている拘留者にとって、希望を持つということは逆に苦しいことなのではと感じたけれど、ラストのように、エミリーが身を以てアリに証明した「物事は変わるもなだ」という一言。

若干のご都合主義的な演出が気にはなったものの、観る価値のある素晴らしい作品だと思えた。

クリステン・スチュアートの演技も良かったしキャスティングも良かった。
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